おかしい。

ぎゅっと瞑ってみたり、開くすれすれのところで止めてみたり。
眠いはずなのになかなか寝付くことができない。

スズは幾度となく、けれどほんの僅かにコートの中で身じろいでいた。


(瞼は降りたがるのに・・・)

頭が妙にすっきりしてしまって、眠りに入る身体を起そうとする。

(これじゃあ・・・意味がない)



「どしたの?眠れない?」


もぞもぞと動くスズを察して、クザンが彼女を覗き込んだ。


「眠いのですが・・・どうにも頭が冴えてしまっていて、」

「座った姿勢でなんて、気持ちよく寝れねェよ。大人しく此処で寝ればいいものを」

クザンは足をぽんぽんと叩いた。

(う・・・、デジャヴです)

どこかさっき見たような光景。
けれどクザンは何も気にせず、「ほらほら」と目で訴えてくる。


「膝枕するくらいなら起きていたほうがいいです」


「(そんな眠そうな顔でよくもまぁ・・・)
じゃあ膝枕は勘弁してあげる。だから、なんでそんなに睡眠不足になってるのか教えなさい」


「・・・」


一瞬にしてスズの顔が陰った。

「変な奴だ、と思わないでくださいね」

そう言った後、少し黙りこんだ。執務室に沈黙が満ちる。
そして、ほう、と一息をついてからスズは申し訳なさそうに切りだした。

「・・・クザンさん、今晩この部屋に泊ってもいいですか?」

「え?泊る・・・って、ここ?執務室?」

「はい」

予想外のスズの言葉に、クザンは戸惑った。
執務室に泊るとはどういうことか、まさか、いやでも、とちょっとした下心が首を上げる。


「部屋が怖くって」

「え?」

「部屋が・・・海兵寮が、怖いんです」

震えを含んだような声でそういうスズ。その声に、クザンの下心は瞬時にひっこんだ。

海兵寮とはスズが日ごろ寝泊まりをする場所で、妻帯者ではない海兵に与えられるごく普通の寮。ただ、寮というにはあまり住民同士の交流がなく、どちらかというとただの宿舎である。


「最近、誰かの気配を感じるんです。部屋には誰もいないんですが、外に・・・。ドアのそばに誰かいるような気がして・・・」

ぶる、とスズが身を震わす。


「もしかしてオバケ?」


「いやああ」

スズはソファに置いてあったクッションをクザン目がけて放り投げた。


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