先日から綺麗になった青雉執務室。 胸へ吸い込む空気も心なしか艶やかだ。
特にこれといった事件もなく、大物海賊も大人しくしているようで、クザンは仕事に追われることのない朝を満喫していた。
そこへおずおずとスズがやってきた。
「・・・おはようございます」
「珍しいな。寝坊かい?」
「はい・・・申し訳ございません・・・」
いつもより3時間あまりの遅刻。 ソファに寝ころぶクザンとは違い、仕事に真面目なスズは滅多な事では遅刻なんてしない。
「どうしたの、目ェ赤いよ。それにクマができてる」
「ちょっと最近寝付けなくて、」
スズの目元はどんよりとしていて、不調なのが見て取れる。 本人はさほど気にしていないようだが、クザンの目にそれらは痛々しく映る。 そういえば心なしか、眉もハの字気味な気がする。
「何か悩み事?おじさんに話してみる?」
「ふふ、大丈夫です」
自分のことを「おじさん」と呼んだクザンが面白くて、思わず笑いがこぼれた。
「ふあ・・・、っとと・・・」
思わずでたあくび。慌てて口を押さえる。
(そんなに眠いのか・・・スズちゃんにしては珍しいなァ。)
「今日も執務室は平和そうだから、ここにきて一緒に寝るといい。何かあったら先に起きて教えてあげるよ」
俺は睡眠が浅いほうだから、と付け足してクザンは自分の隣を勧めた。
「・・・」
スズは数秒悩んだ後、その言葉に甘えることにした。
「じゃあ、お邪魔します」
持ってきたカバンを自分の執務机に置いた後、クザンの隣にゆっくりと腰かけた。 背もたれまで深く座り、着ていた海軍将校のコートを前後逆にする。 そして胸のところに正義を掲げながら小さく伸びをした。
「では、何かあればすぐに起こして下さいね」
そう言うと、コートの襟元に鼻のあたりまで埋めて目を閉じた。
「何なら横になってもいいよ」
「うん?」
「膝枕してあげるからおいで」
クザンはぽんぽんと自分の足を叩き、ここに来いと示す。 それを見たスズの顔は途端にボン!と赤くなった。
「いいです、いらないです!」
手を前に出して上下に振り、遠慮を伝えた。
「じゃあ膝枕してよ」
「なっ・・・! もっとお断りです!」
しれ、とそう返したクザン。 スズは、赤いままの顔をクザンと反対のほうへ向けた。
「もう寝ますから!」
「あらら、照れなくてもいいのに」
「寝ますから!」
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mokuji |