そのころ、とある廊下で。
「こんなに暑いと、いっそ自分の能力すら恨めしくなるのォ」
海軍大将・赤犬ことサカズキが独り言を呟きながら歩いていた。
暑い、暑いと言いながら今日もしっかりスーツを着こなしているサカズキ。 手にはいつもの黒い手袋。
熱くたぎるマグマの能力者でも、じわじわと湿気を含んだ蒸し暑さは苦手のようで、先程から扇子でぱたぱたと涼をとっている。
そんな彼の前方に紙切れらしきものが落ちていた。
「誰じゃァ、あんなところにゴミを放置しちょるのは」
ゆっくり近づいて拾い上げると、それは紙ではなく一枚の写真であった。
「・・・サクラ・スズ?」
写真に写っていたのは見知った女。サクラ・スズ、近頃おなじ大将仲間の補佐をしている女である。
大口を開けてカレーを頬張る姿は信じ難くも彼女のものであった。
(元気の良さそうなところが奴らしい、と言えばらしいが・・・)
カレーが好きなのだろうか、とサカズキはそのまましばらく写真を眺めていた。
嬉しそうにキラキラ光る青い目を見ているうちに、ある男の顔が頭にポンと湧いた。
(・・・クザンに持ってっちゃろうか)
そして、サカズキは写真の女をいたく気に入っている奴の元へ足を運んだ。
こんこん、
「クザン入るぞ」
親しき仲にも礼儀あり。サカズキはちゃんとノックしてからドアを開けた。 そして開けた先に信じられない光景が広がっていた。
「お!サカズキ、手伝いに来てくれたの?」
「クザン、お、お前・・・自分の部屋で何漁っとるんじゃア!!!」
サカズキの頭はその光景を信じられないあまり、思わず誤変換をした。
「違う違う!掃除してんの、そ・う・じ」
「・・・嘘つけ!お前がそんな面倒なことするわけないじゃろ!!」
「心外だなァ、これでも綺麗好きなんだけど?」
「信じられん。信じるに足らん。」
「ひっどい、泣きそう」
いい年した男が泣きまねをする。 年頃の女性ならば自身に罪悪感が積もる場面であるのだが、相手はクザン。気味の悪いことこの上ない。 サカズキはクザンの襟首をつかみ、それをやめさせた。
「いいかげんにせんか。暑苦しい」
「ん?何? 冷やす?」
「いらん!あー・・・もう、そんなこたァどうでもええんじゃ!ほれ、お前にこれをやる」
そう言って先ほどの写真を手渡した。 サカズキの手から写真を受け取ると、クザンはまじまじと写真を眺める。
「あれ、これスズちゃんじゃない。どしたの、これ」
「さっき廊下で拾った。人の写真を捨てるいうのは気が引けるじゃろ。だからお前のとこに持ってきた」
「ふーん・・・。サカズキが撮ったわけじゃないんだ?」
「そんなわけないじゃろ!それに、わしならもっとまともな写真を撮っちょる」
クザンの手の中にある写真、カレーを頬張るスズ。
「・・・だよねェ。でもこの写真すっごい可愛くない?見てこれ!お米がほっぺたについてる!こんなに目を輝かしてカレー食べてるスズちゃんなんて超レア!」
「・・・」
写真をいろんな角度から眺め騒ぐクザンを横目に、サカズキは部屋から抜け出した。
(煩くてかなわんけェ・・・)
廊下にでると、またじわじわと蒸す暑さが身体に貼りつく。
(クザンの部屋はさすがというか・・・涼しかったのォ)
この気温では、部屋と廊下の温度差が実に嫌になる。 サカズキは先ほど懐にしまったセンスを取り出し、ぱたぱたと扇いだ。
(それにしても、なんであんなとこにあいつの写真が落ちちょったんじゃ・・・?)
それに誰が撮影したのか、皆目見当もつかなかった。
(・・・ま、どうでもええか)
暑さ故に考えるのも気だるい。サカズキは涼しい執務室へと急いだ。
*prev next#
[ 42/80 ]
mokuji |