16:忍び寄る目


彼女の後ろをひたひたと、足音もなく付いてくる。

「む、」

振りかえると誰もいない。

「勘違い・・・?」

目に見えずとも、色濃い気配。
熱帯夜のはずなのに、スズの背筋はゾクリと震えた。






気づいたのは食堂でいつものようにご飯を食べていたときであった。

「んー!美味しい!仕事のあとのご飯ってなぜこんなに美味しいのか」

スズはもぐもぐとお気に入りのカレーライスを頬張っていた。

パシャ

右のほうから、窓を閉めたような音。
スプーンに上手く乗せたご飯とルーを食べようと、大きく口を開けた瞬間だった。

「?」

不審に思って音がしたほうを向くが誰もいない。
この時は別段、それを気にも留めず再び食事を楽しんだ。



けれど最近、同じ音をスズは何度も聞くこことなった。
多い時は一日に何度も、少ない時は1週間にほんの数回。
誰かの気配とともに、それはスズの近くをチラつく。
姿の見えない相手にすこし怖くなり、新手の耳鳴りだ、と諦めようともした。しかし、そう都合のいい解釈をできるわけもなく、どうしようもないまま日は進んだ。

「誰かにつけられてる・・・?」

やはり行きつく結論はそうなるわけで、恐怖まじりの疑念はふつふつと大きくなる。

「私・・・何かしたのかな」

公安課の海兵がスズの悪名高い所業に目を光らせているなんてことはないに決まっているのだが、彼女の頭の中では今までの人生がぐるぐると回転する。
ただ回転するだけで、答えは見つからない。


「こないだ行ったケーキ屋さん、ちゃんとお金払ってきたよね?」

パシャ


そうこう考え込んでいるうちに、またあの音がした。


(なんなんですか、もう・・・!!)


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mokuji


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