雲ひとつない、よく晴れた朝だった。
ミレディーがモモンガの元へ戻った翌日、青雉執務室はすこし寂しい雰囲気が流れていた。

「ミレディーさん・・・いえ、モモンガ中将・・・もう少し早く言ってくれれば、お別れ会とかできたのに・・・」

机にべったりと頭をつけながら、スズはぶつぶつと呟いた。

「仕方ないでしょ。ずっとここにいるわけにはいかないんだから」

「でも・・・」

「ホントは昨日にはもう戻って良かったのに、わざわざ一日遅らせてくれたんじゃない。それで充分だよ」

スズの上半身が、勢いよく机から持ち上がる。

「! そうなんですか?!じゃあ・・・良かったです!」

「それにミレディー准将忙しいだろうけど、会えないわけじゃないし。」

そう、いままでは会おうとしなかったから会えなかっただけで、共に海軍に属する身。会おうと思えば会える距離にいるのだ。

(お暇な時を見計らって、ご飯でもお誘いに・・・!)


「しかしまぁ・・・まさかモモンガ中将自ら迎えにくるとはねェ」

「あっつあつですよねえ」

思い浮かぶのは昨日の夕方。
ミレディーを迎えに、モモンガ自ら青雉執務室に足を運んだ。

「それで、俺らがいる前でぶちゅーだもんね。」

「・・・ぶちゅーでしたね」

ドアを開けて入ってくるモモンガを見るなり、ミレディーは走り寄り、いくつか挨拶を交わしたかと思うと、彼の首に手を回し口付けた。

その様子を見ていたスズとクザンは二人して口を開いて固まった。


「あれっていわゆる美女と野獣ですかね」

「スズちゃん、モモンガ中将のことなんだと思ってるの」

「うぐ・・・内緒ですよ」

「それにミレディー准将、あぁ見えても・・・まァいいや」

「?」

サカズキと幼馴染の同期であるミレディー。
ミレディーがそれをもみ消そうとしている以上、クザンの口から伝えることはできない。


「久しぶりの二人きりだねェ」

「ミレディーさんがずっといてくれたらよかったのになあ」

「俺がいるじゃないの。ちゃんと仕事だってしてやるさ」

「・・・なんて信用のならない言葉」

脳裏によみがえるのは、いつも自転車でふらふら出かけるクザン。
スズが執務室にいるときに彼もいたなんてことは数えるほどしかない。

「ともかく、ずっとここにいてください。」

「うん、どこにもいかない」

「本当ですか?今ここで誓ってください!」

「スズちゃんのいるとこにずっといる」

「ん?なんかニュアンスが」

首をかしげていると、横でクザンが立ち上がり上着を手に持った。

「さぁ、お昼でも食べに行こうか」

「む・・・。そうですね、行きましょう」


二人は昼ごはんを食べに、部屋をでた。

スズは前を歩くクザンにいつもより少し早い歩調でついていく。

(大きな背中だなあ)

正義を背負うには、これくらいの広さがないと潰れてしまうのだろうか。
それに比べて、自分の背中のなんと狭いことか。

(肩幅・・・広くなるかな?)

一、乙女として少しズレたことを考えていると、目の前の大きな背中が立ち止まる。
そして、前に見えるドアが開いた。

「ボルサリーノォ」

「?」

スズが首をかしげていると、ドアの中から声がする。

「クザン〜・・・毎度毎度さァ〜、昼飯たかりにくるのやめてくれないかなァ〜?」

「俺とボルサリーノの仲でしょ!」

「!!!」

スズは顔面が蒼白に染まる。

「おやァ〜?スズちゃんもいるのかァ〜い・・・なら歓迎するよォ〜」



スズはいつも以上に豪華な昼食が目の前に広がる中、畏れ多くてなかなか箸が進まず、結局後から執務室に買い置きしてあるパンをかじるはめになった。


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mokuji


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