「わたくし、当時、接種することで新しい細胞が作られ、傷を治癒できる薬を開発していたわ。ふふ、スズさんの能力と同じものができれば、彼女が傷つく機会が減ると思ったのよね。
何度も実験は失敗したけれど、ある日、ラットを使った実験でみるみるうちに傷を治癒したラットがいた。」

目の前で類似するスズとの記憶。

「そのあと何度か実験してみたら、数匹に一匹、成功したラットが出てきて、改良を重ねて行くうちに100%の数が出せたの」

「へェ、それで?」

「ラットの実験だけじゃ実用には遠いでしょう。ただでさえ試みが新しすぎるもの。
だからわたくしは自分でそれを接種した」


実験用につくった指先の切り傷。薬を投与してすぐ、その傷は治った。
実験の成功を喜んだのもつかの間、体中に電撃のようなものが走る。


「特に目に見える変化はなくて、ただの副作用か何かだと思っていたのだけれど・・・数年経って気がついた」

周りの同期とは全く違う若い容姿。

「罰が降りたのですわ。私は変わらない、退屈な自分を眺めなくて死ななくてはならなくなった。」

「不老不死になったわけじゃないのか?」

「ええ、見かけはこの様だけれど、中身は年相応よ」


「はー・・・。そうは見えないなァ。それは罰じゃなくてラッキーでしょ」

「ラッキーなんかじゃないわ!」

自分だけ進まない時間の中で、けれども死は平等に訪れて。

「変われないということは、進化できないことですわ。特に、わたくしくらいの歳になればあとは衰えるのみ。
変わらない見かけに永遠を感じつつ、本当は死に向かってただ歩いている。
なんて・・・悲しい生き方・・・。」

誰もが老いを避けたがるが、老いていく楽しみだってあるはず。
ミレディーはそれをもう体感することはできない。
変わらない顔。今後の変化を望めないソレは彼女にとってただのアクセサリーのようなものであった。


「あー・・・でもいいじゃない、美人さん。これでサカズキと同いど」

ガッ!!!

クザンが何か言いかけたのをミレディーが顔を片手で掴んで止める。
指にはこれでもか、というほどの力が込められており、クザンの頬の肉に指がめり込まんばかりだ。

「いひゃい」

「サカズキ?どちらさまですか、そのオッサンは?」

「ちょっ、肉、挟まってる」

「訳のわからないことを言うお口はひねりつぶさなければいけませんわ」

ぎりぎりぎり・・・。メリメリメリ・・・。
クザンが「ギブギブ」と白旗を上げると、ミレディーはやっと顔を解放した。
頬にはくっきりと赤い指のあと。

「(変わってないなァ)サカズキは知ってるんでしょ、どうせ。あんたの正体」

「えぇ、まぁ。ボルサリーノにもすぐ気付かれましたわ。」

気づいてなかったのはあなただけ、ミレディーは言った。


「似てるなァとは思ってたんだけど・・・死んだって聞いてたし、綺麗なまんまだし。あくまで常識的な判断をしたんだけど?」

「そこまで頭が使える人だったのですね」

普段の彼女からは想像のつかない、皮肉たっぷりの言葉。
ここからはミレディーの独壇場であった。


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mokuji


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