「・・・はァ、ダメだ。俺もさっさと寝よう」
これ以上ここにいるのは精神衛生上よくない。 クザンはじわりと熱の出始めた身体をソファーから離した。
「あら、紳士的ですね」
ミレディーの声が聞こえた。
「しかし、接吻も寝込みを襲った内にはいるのかしら。ふふ」
くすくすと上品に笑うミレディーと、見つかったかという顔をしたクザン。
「いつからいたの、ミレディー准将」
「そうですね・・・スズさんの可愛らしい寝言のあたりから」
そこのドアのところに、とミレディーは指さした。
「・・・スズちゃんには内緒にしててくれねェか」
「それはあなたの返答しだいね、クザン?」
くすり、
微笑む顔はいつものように美しいのに、それはどこか黒い空気を纏っていた。
「・・・何?どういうこと?」
「あら、つれない。今日、散々人のこと調べてたのはどちら様?」
こつんこつんとヒールを鳴らせてミレディーがクザンに歩み寄る。 そして彼の黄色いネクタイを引っ掴むと、ぐいと顔を近づけさせた。
「気づかないとでも思って?」
息遣いもよく聞こえる距離。 愚息も昇天しかねない動作だった。けれどもクザンは動じない。
「あんた、やっぱり」
「お久しぶりです、クザン」
「アンヌ・・・」
アンヌと呼ばれたミレディーは、満足気な顔でネクタイを離し、クザンを解放した。 クザンはばつが悪そうに頭を掻いた。
「医療薬剤開発局、局長、アンヌ・ド・ブリュイ・・・。」
「仕事嫌いのあなたが、よくそこまで調べられましたね」
「これでも大将だからな。それよりなぜ生きてた?なぜその顔でいる?」
「これだから男はせっかちで困りますわ」
「答えてくれ」
「・・・ここではスズさんを起しかねません。あなたの部屋に通していただける?」
「・・・」
ミレディーは近くにあったブランケットをスズに掛けてやり、部屋へと向かうクザンについて行った。
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mokuji |