『FANTASY』 その紅茶の香りに包まれて、スズはすやすやと眠っていた。
「・・・おーい」
声をかけても当然のように反応はない。
「ただいま、スズちゃーん。 おーい」
寝ているスズに気遣うように下げたボリューム。 起こす意思の有無がよくわからないその声音は、クザンのものであった。
「気持ち良さそうに寝ちゃって。」
起きる気配の全くないスズに、クザンがつんつんと触れる。
「ん、う・・・」
頬に当たるクザンの指が気になったのか、スズが身をよじった。 「やばい」と思ったクザンは即座に指を離す。
「・・・」
「・・・」
静かになった部屋に、スズの規則的な呼吸の音。
(完全に夢の中か・・・)
疲れて寝ているのであろうスズを起こすわけにもいかず、クザンは執務室横の自分の自室へと向かった。
「クザン、さん・・・」
突然、ソファーのほうからスズの声。 思わずクザンは足を止めて、ソファーのほうへと戻る。
「・・・なんだ、寝言ね」
てっきりスズが起きたのかと思ったが、彼女は先ほどとなんら変わらず寝息を立てていた。
「ん・・・クザンさん、」
「何、どうしたの?」
頬をソファーにすり寄せながら名前を呼ぶスズに、聞こえてないと分かっていながらクザンは声をかけた。
「静かに寝ときなさい。気になっちゃうでしょ」
起こさないようにゆっくり頭を撫でてやると、スズは言われた通り静かになった。
ふにゃり
「!!」
静かになった代わりに、安心しきった顔で微笑んだ。
(あー・・・・)
ソファーの横に座り込み、撫でていた手で顔を覆った。
無防備すぎるスズの寝顔。たとえ相手があの海軍大将であっても、理性の壁をぐらつかせるには十分な破壊力を持っていた。 また、整った顔なのにどこか幼さを感じる笑み。白い手足。すべてがクザンを攻撃する。
(これは、反則でしょうに・・・)
クザンはそっとスズの頬にキスをした。
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mokuji |