「逃げ出してしまいたい・・・!」

青雉・クザンの執務室で小柄な女性が白い手をせかせかと動かせながら紙の束と格闘していた。

サクラ・スズ。
海軍大将は青雉の、専属補佐である。
彼女はいわゆるクザンがサボらないように目を光らせる役なのだが、天下のサボリ魔クザンにいつも上手い具合に逃げられている。

(時々手伝ってくれることも・・・ほんの時々ですけど・・・あるのに・・・)


「なぜ今日という日におられないのですか!!」

躍起になって頭をかきむしると手の平についたインクが、頬を黒く染めた。





「ただいま戻りました」

凛とした声がして、書類配達と資料調達に行っていたミレディーが帰還した。


「ミレディーさん・・・!」

左頬にインクの化粧をしたスズは、喜びで視界を滲ませながら、紙山の合間から顔を出した。
ミレディーは細い腕に似つかわしくない量の書物をカゴに入れて持っていた。

「おかえりない・・・!待ってましたあ・・・!」

アニメの感動の再会シーンのように、とととっとスズが駆け寄っていくと、ミレディーはカゴを床に置き、彼女を胸の中に抱きとめた。

「う、うぅう・・・ぅ・・・」

豊満な胸にしくしく、と泣く音。

「あらあら、ごめんなさい。とてもお待たせしてしまいましたね」

ミレディーはスズの顔をあげさせ、頬のインクをハンカチで拭ってやる。

「仕事・・・全然減らないんです・・・。どれだけ書いても、どれだけ捺印しても、底なしなんです・・・・。」

「まあまあ。それは大変・・・」

「手ももう・・・言うこと聞いてくれなくって・・・」

いつもなら書類仕事に辛勝ではあるものの、全勝無敗のスズ。
彼女がここまで参るのにはそれなりの理由があった。

「クザンさんのバカぁああああ」

『中将以上のサインを要する書類』これがスズを苦しめていた。
これはスズのサインだけでは通らない書類である。
もちろん、クザンがサインすればよいのだが当の本人がこの場から逃亡中。
これは今日に限ったことではない。なので大将・青雉、赤犬、黄猿の部下にのみ与えられた特権がある。
『大将の不在時は直属の部下、またその中の最高位の者のサインでも可とする』というものである。
サカズキ、ボルサリーノは自分でサインするので、これは主にクザンの部下宛てのもの。
そして今のクザンの直属の部下といえば、専属補佐のスズ。

必然的にクザン宛ての書類をスズが片付けるはめとなった。

「これ、サインだけじゃなくてっ、私がするなら・・・その旨書かなくちゃいけなくって・・・・」

「そういえばそんな権限がありましたね・・・。
私が他の書類や雑務を引き継ぎます。スズさんは青雉さまへの書類のみ片付けてください。」

「ぐすっ、ごめんなさい・・・・よろしくお願いします・・・終わり次第そちらをお手伝いします!!」

スズとミレディは二人して仕事を片付けにかかった。


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mokuji


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