真っ赤な炎がところどころに燃え盛り、周りには怒声やらの叫び声が響いていた。
少し離れた先で自分の上司の首が刎ね飛んだ。

それを見て、一瞬にして身体が硬直した。
もしかして、自分もここで死んでしまうのか。

(彼のように)


動かない身体はまるで鉛のようで、叩き斬られた右の肘から先と、削がれた太ももの肉に気づくまでいつも以上に時間がかかった。


しかし、気づいてしまえばあとは押し寄せるのみ。
火に焙られている。
熱くてたまらない血はどんどんとあふれて傷口を染めた。


「ッあ!! く! ふ、うッ」


このまま死んでしまえたらきっと楽だろうにと頭の端では叫んでいるのに、口はそれに反して唇を噛む。
意識が飛んでしまわないように血をにじませながら。


必死の思いで後ろを振り向くと、自分を『そう』したであろう者がニタリと口を歪ませる。
悔しいだとか憎いだとかいう気持ちよりも、早く逃げなければと目を見開いた。

男はそれを見て満足げな顔をした。


「綺麗な髪だと思えば女か。くく、残念ながら今は、ぁ、あ、あ」


壊れたレコードのようになってしまった男。膝からカグリと崩れて前のめりに倒れこんだ。
男の背中、ちょうど心臓の位置くらいであろう位置にダガーナイフのようなものが刺さっていた。

何が起こったかわからない。
男の不思議な姿に女は一時痛みを忘れ、目を見開く。


「大丈夫ですか」

白い肌を真っ赤に染めた青い瞳の小さな女の子が女に声をかけた。

「腕が・・・!あ、足もですね!」

女の子は女に走り寄ると彼女の足元の腕をひろう。

「よいしょ」

女の子は、女の斬り落とされた腕をあったはずの場所に押し当てた。


そこからは自分の腕ではなく他人の腕を見ているようであった。
自らの腕がコマ送りのように元通りになる。それに反比例して女の子の腕に赤い筋が入りその筋がぱっくりと割れていく。

気がついたときには腕は何もなかったようにくっつき、削がれた太ももの肉も元に戻っていた。


「うー・・さすがに痛いです」


先ほどまでの自分と全く同じ格好をした女の子がそこにいた。


「あなた!!そんな・・・!うそ!?」

「あ、のう・・・この腕、ちょっと持っててくれますか?」


慌てふためく女に、肉の塊となった腕を差し出す。
女はそれを訳も分からず受け取る。

「腕を・・・ここに。はい、そうです。そのまま持っててください。」

女の子は女に、さっき自分がしたように腕を持たせた。
そしてゆっくり深呼吸をする。
何回目かの息を吸った時、それを吐き出さずに腹にためた。

「んっ」

女の子が力むと見る見るうちに腕がくっついていく。
女は慌てて自分の腕に目をやったが、赤い筋がはいってそれが割れたりはしていない。

女が目を瞬かせていると女の子が大きく息を吐いた。

「ふー・・・治癒完了です」


魔法かなにかだろうか、と女は思った。




そう、これは忘れることもできないミレディの過ぎ去りし記憶。
当の本人は全く覚えていない、彼女だけが忘れられないでいる記憶。


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mokuji


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