青雉の執務室に昼下がりのような暖かな時間が流れる。

「クザンさん・・・大丈夫かなぁ」

先ほどサカズキに引きずられていったクザン。
マグマのごとく煮えたぎったサカズキがクザンをどのように扱うのか目に見えている。
仕事をきちんとこなしていないクザンに非があるのをスズは重々承知しているが、さすがに少し心配になった。

「ふふ、大丈夫ですよ。お二人とも仲良しですから」

「そうですけど・・・」

「・・・

スズさんは本当に青雉さまのことがお好きですね・・・」


「!!」

青天の霹靂。
鞭で叩かれたように、スズは勢いよく立ちあがった。

「なっ、そんな・・・そんなわけないじゃないですか私がクザンさんを好きだとかそんな・・・!!」

真っ赤に染め上がる顔。口だけの否定では足りないのか、否、と振る手。
彼女のすべての行動が「非ず」と叫ぶ。

「あら、それは照れているだけです。スズさん。」

「へ?いや、本当にッ・・・」

「・・・わたくしと青雉さまが話しているときの目は、そうはおっしゃっていませんでしたよ?」

「見間違いです!!」

「ならばあなたは、」

そう言ってミレディーはスズにずい、と顔を寄せた。
小さな息遣いも聞こえてしまう距離にミレディーの顔がある。


「昨日からから一度も”ここ”が痛んだことはないのかしら?」


くすり、と悪戯に微笑みながらミレディーはスズの鎖骨の下を人差し指でぐいと押す。
核心近くに突き刺されたその言葉に、スズは目をそむけた。


「それは・・・」

じくじくと再び痛みだす傷。図星だった。


「・・・ふふ、顔に出ていますよ。正直者ですね、スズさんは。」

「でもこれは・・・」


(そう、これは・・・)


焦燥感に似た・・・火傷だ。
醜い、触ったら痛そうで気にしなければいつか消えるような火傷。

自分がクザンに対して抱く”好き”は、ミレディーは今述べている恋愛という盤上での”好き”とは違う。
そうスズは確信のようなものをもっていた。

クザンがミレディーを綺麗だと褒めちぎった時
クザンがミレディーの手に触れた時
ミレディーがクザンと楽しそうに話している時

ミレディーが
クザンとスズしかいなかったこの執務室に来ると決まった時

確かに、胸はチクチクと痛んだ。
けれどその焼きただれる感情は、恋情からくるものではないはずだった。

いうなれば弟や妹ができると母から聞いたときの子供が抱くような感情。


(だって私は、クザンさんを、そういう意味で好きになろうとしたことがない・・・)


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mokuji


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