「サクラ少将はお可愛らしいですね。とても女の子らしくて・・・」
スズの頭をミレディーが撫でた。 それはとてもとても優しい手つきで。 母に撫でられたことのないスズは、自分に母というものがあったのなら、きっとこんな感じなのだろうと、切なさの混じった幸福を感じた。
「デュマ准将はとても綺麗です・・・まぶしいほどに」
「・・・」
えへへ、と笑いかけるスズを、ミレディーは大切なものを扱うように、けれど力強くぎゅっと抱きしめた。
「そんなことありませんよ。・・・ごめんなさいね」
「? どうしたんですか?」
なぜ突然謝るのか、スズには理由が全く見当もつかなかった。
「いえ、なにも」
本当に何もないように笑顔を浮かべるとミレディーはスズから手を離し、その片方の手を自分の顎に当てて言う。
「ミレディーと、気軽に呼んでくださって結構なのですよ?階級なんて堅苦しいだけです」
「いや、でも・・・」
「では、これはお願いです。・・・わたくしのお願い、聞いてくださらないかしら?」
「!」
青い海の色をした目がぱちくりと瞬いた。
「えっと・・・ミレディーさん・・・?」
ほんのりと頬を赤くして、もじもじと照れながら伏せられる青い瞳。 それを嬉しそうにミレディーは見つめた。
「はい。」
「あの! ミレディーさん、も、私のこと・・・スズって呼んでください!」
「あら、よろしいのですか?ふふ、ありがとうございます。」
よしよし、とミレディーはスズの頭をなでる。
(この人は・・・本当にお母さんのよう・・・)
一度も会ったことがないけれど、何度だって願った。 スズの想像した母の像、それはそっくりミレディーであった。
(ずっと、ここにいてくれないかな・・・)
モモンガ中将のところから異動になって、ずっと一緒に働けたらどんなにいいか。 心からそう思った。
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mokuji |