ジェラートの唇



 ウォーターセブンで手頃な観光船を捕まえて金巡りのいい島へたどり着いた。
 「わあ」だとか「すごい」だとか呆けている同行人を無視して歩き、ある類の店を探す。こういった金持ち相手の島ならきっとあるはずなのだ。
 無駄なエネルギーを使って水を打ち上げている広場を抜けて、目が眩むような照明の看板のひとつひとつを見る。
(あった。)
 沢山のブティックが並ぶ通りのそばにそれはあった。



「これをとことん綺麗にしてやってくれ。」
 俺はスズをペイッと投げるように前へ押してスタッフの一人に引き渡した。

 チョコレートのような色をした壁紙にマシマロのような色と鈍い艶をもつの椅子やカウンター。受付として出迎えた店員の唇はジェラートのようにとろけそうなルージュが引かれていた。
 甘ったるい空間に立つ美味しそうな唇の女。俺は生理的に喉を鳴らした。
 この女と一晩・・・大いにアリだ。どうせそういった事も含めてのあの大金だろうし。長官さまさま。

「あの、コースのほうはどういたしましょう?」
 俺がじっと見ていたため形のよい唇が戸惑うように尋ねてくる。本当にうまそうだ。
「任せる。頭のてっぺんから爪の先まであんたみたいないい女にしてくれ。」
 惑わすために口角を上げて相手の目を見据えると相手もまんざらではないよう。
「・・・はい、かしこまりました。」
 熱のこもった目を伏せて恭しく頭を下げ、店員はスズを店の奥へと連れて行った。
 泣きそうな顔をしてスズがこちらを見たが、知ったことか。取って食われりゃしない。さっさとマシな女になってこい。

 しばらくしてスズを連れて行った店員が戻ってきて俺に小さな紙切れを手渡した。
『○○時 お店の横のバールで』
 綺麗な文字を俺がすべて読み終える前に店員はぱたぱたと早歩きで店の奥に戻って行った。

 今夜はいい餌にありつけそうだ。


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mokuji

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