買い物
だらしなく伸びた髪を肩甲骨のあたりでバッサリと切り揃えられた。 これから・・・を考えて、てっきりくるりとしたカールが似合う髪にされるものだとばかり思っていたので、鏡に映る真っ直ぐな髪に驚いた。まあ、淫売の女がみんなパーマでロングだなんて私の偏見でしかないのだろう。 髪を撫でるようにして触れば、ナチュラルストレートの髪は以前に増してつややかで例えるならベルベットのよう。 「いかがでしょう?」 ヘアサロンの人が私とその横の女に聞いた。 今までの無造作に伸びた髪に比べればとてもきれいなので私は文句ひとつない。なので適当に「いいです」と返した。あとは横の女の返事を待つだけ。 「・・・いいわ。すごくいい。」 一瞬、目を見開いてから女は作ったような笑顔でそう言った。
そのあと、店の人が扉を開けてくれるような服屋さんに連れて行かれて、見たことないくらいの桁を提げた服をあてがわれ、ぽいっと試着室に放り込まれた。 フィッティングルームというには大きすぎるその部屋は、何のためにあるのか分からない革張りの椅子にガラスのテーブルが置いてあった。 「じゃあ、順番に着せていって。」 ピンと張った椅子のカーフ革よりも弾力のある肉がそこに座った。タイトなスカートから覗く太ももは売ればどんな皮革よりもうんと高い値が付くのだろう。 女に指示されるがまま、私は部屋の真ん中で服を着たり裸になったりを繰り返した。初めこそ羞恥心で押しつぶれてしまいそうだったけれど、10着目を着せられてるあたりからだんだんとどうでもよくなってきた。しんどい、疲れたといった感情ばかりが募っていく。 考えることも面倒になってきて、私は思考と体を分離した。着替えさせられている自分を窓枠ひとつ挟んで俯瞰する。着やすい・着にくいの違いはあれどどれが似合うだなんてわからない。もう好きにして。
結局、黒いの2着と赤いのを1着買うことになった。ふわりとしたサテンの黒のドレスが綺麗に畳まれて箱に収められている脇で私はカバンを漁る。 「払わなくていいわ。」 カバンの中から金の入った封筒を出していると手を出して制された。 「どうせまた来るから、まとめて払うのよ。」 そう言ってから女は店員と一言二言かわし、私を連れて外に出た。 まとめて払う?この女はこのお店とそんなに親しいの?
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mokuji |