エニエス・ロビーから



 綺麗なわけでも、特別愛嬌があるわけでもなく、スズはただの女として連れてこられた。

「ルッチ。ねえルッチ。」

 そう、決して俺の膝の上を特等席として「お腹すいた」とつぶやくような女ではなかった。
「メシにしよう。ブルーノ呼んで来い。」
「はーい。」
 とてとて、と可愛らしい足音も後で身につけたもの。

 青臭いガキからいい年したオヤジまであらゆる男があいつに惚れるよう様々なことを教え込んだのは俺だ。決して個人の好みなんて関係なしに世間でいう「いい女」に仕立て上げあげたつもりだったのだが、どうも自分好みの女になってしまったようで嬉しいやら忍びないやら。
 いいや、嬉しい。

 あんな平凡な女をよくここまで育てたと自分を褒めてやりたい。



 スズを連れてきたのはスパンダム。
 俺が窓から差す光をうっとうしく思いながら陰で本を読んでいると、長官のスパンダムに呼び出しを食らった。
「おーい。ルッチちょっと来い。」
 ちょいちょい、と手招きをしていたのでお咎めを受けるわけではないと判断し、読んでいた本を置くと俺はすぐに長官のいる部屋に向かった。

 部屋に入ってすぐ、見たことのない女が目に付いた。
「あー こいつか。こいつがなあ、ええっと・・・」
「スズです。」
「ああ、そうそう。スズだ。」
 だからどうした。どこのどいつだ。
 おっかない目つきになっていたんだろう、女のほうへ視線をやると引き攣った顔で息を飲むのが分かった。

「それで。何か用ですか。」
 こんな取るに足らない女を紹介されるだけなら早く部屋に戻って本を読んでいたほうがマシだ。さっさと用事が済むよう願った。
「ルッチ。お前に1か月休みをやる。ほかの仕事はジャブラにでもやらせとけ。」
「はあ。」
 休みという言葉に一瞬浮足立ったが、この長官が手ぶらで1か月も休みをくれるはずがない。どんどんと気持ちは冷めていく。
「お前にゃ他にやってほしい事がある。この女を1か月後の任務に間に合うように仕込め。」
「・・・。」
 突拍子過ぎてわけがわからない。
「・・・仕込む、というのは。どういうことですか。」
「どんな男でもオトせるくらいの美人にしろってことだ。」
 なおさらわからない。そんなこと、この女を世界屈指のエステに放り込むか整形させるかするしかないじゃないか。
「俺でどうにかなるもんじゃあないのでは?」
「どうにかしろ。」
 無茶を言う。
「そういった任務ならこんな女を使わなくともカリファにでも頼めば・・・」
「あの女じゃ無理だ。あんなのと寝られる男なんていねえよ。朝には死んでんぞ。」
 セクハラです、長官。・・・しかしその考察には大いに賛同する。
「1か月で使い物にならねぇならほかの手を考えてもいい。時代は省エネだ。あるもの使って上手い事やらなくちゃあなんねーんだよ。拒否権はねえ。とにかくやれ。わかったか。」
「・・・はい。」

 上司の命令を断るわけにもいかず、一か月の名前だけの休みと女一人を連れてエニエス・ロビーを出た。


(それにしてもなんて羽振りのいい。)
 女・・・スズと一緒に渡されたのはとんでもない大金。先ほど省エネがどうのこうの言ってたのはなんだったのか。

「あ、あの。」

 ・・・面倒くさい。

俺はスズの言葉すべてを無視してエニエス・ロビーを出る海列車に乗った。


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mokuji

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