ビスクドールの杯



 鼠蹊部にひんやりとしたお酒をそそいで、腕を広げて誘えば太った豚はにやにやと笑ってそこへ鼻をつけた。

「あぁ....たまらん、こんなうまい酒は他にない」
「おかわりありますよ。」

 2本の脚と下腹部とでつくる三角の溝にとくりとくりと次のお酒を注ぐ。
 すぐさま豚がじゅるじゅると音を立てて飲み干した。
(お酒が勿体ない.....。)
 一般庶民が手を出せないような価格を提げた大吟醸酒。身の半分以上を削ぎ落とされた米で出来たこのお酒は同情する暇もなくこの屑の肥やしになる。

「剃っちゃってるから、わかめ酒とはいかないけど。」
 私は陰核からつるりとした下腹部一帯を中指でくるんと撫でる。
「いや、この方がいい。実に少女のようで刹那的じゃあないか。」
「そう?」
 私の指を自分の指で絡め取って退けると、腹の肉を啜るように舐めて吸った。
「っ....。」
 気持ち悪いなんて、今更。あくまで「気持ちいい」と息を飲んで眉を寄せる。
「ああ....柔らかい。」
「ん.....。」
 蝸牛が腹を這い無いはずの歯で噛むような刺激。鼠蹊部から鳩尾へゆっくりと登り、歪な赤い花を残していった。
 そのうち身体はゆっくりと寝かされて、脚を開かれ、まだ十分に濡れていないそこを男の前に晒す。


「  、  、可愛いね   。」

 豚が私を私じゃない名前で呼ぶのに今更ながら違和感を感じた。そしてそれがとても面白くて口元が緩む。

「あっ....んぅ、」

 『  』?
 そんな女、この部屋の何処にもいないのよ?

 作為的に作られた状況で、存在しないゴーストを抱いているこの男のなんと間抜けなことか。

「は...ぁん」

 嘘っぱちの喘ぎ声を漏らす口が弧を描いて、男の粗く拙いキスを受けた。


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[ 10/12 ]
mokuji

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