シャワー
けだるい身体を持ち上げて、熱いシャワーを浴びた。頭は案外すっきりとしていて、思った以上によく働いた。
(・・・あの女、逃げてたらどうする?)
盲点だった。これから身体を売る仕事をさせられるとわかっていて逃げないのはとことん馬鹿か淫乱のどちらかだ。おそらくあの女は前者。
シャワー室を出て濡れた頭にタオルを乗せる。 (逃げてたら殺すか。) 長官も納得してくれるだろう。CP9の内部を知る部外者など存在していいはずがないのだから。
「私もシャワー借りていい?」 「ああ。」 先ほどまで一緒にベッドのシーツにくるまっていた女が後ろに立っていた。振り向いて息を忘れる。 すっかり落ちた化粧にすっかり痩せた唇。出会ったときの美しさはすっかりはがれおちている。それでも今すぐ求めてしまいたくなる色気には感服するしかない。
シャワー室から水の流れる音と共に女の声が聞こえた。 「あの子、今日もまたうちのお店に連れてくるの?」 あの子とは考えるまでもなくスズのことだろう。 「今日はどこかへ髪を切りに行かせようと思ってる。」 「そう、じゃあいい美容院を紹介してあげるわ。」 キュ、とシャワーを止める音がしてドアが開いた。 「あの子、あなたの恋人ってわけじゃないんでしょう?」 一糸纏わぬ姿で女は尋ねてくる。 「ああ。頼まれて連れてきただけだ。」 「それじゃあ、とことん手を尽くしてあげる。」 だから、綺麗になったあの子に手なんて出しちゃダメよ。
俺は何度目かわからないキスをした。
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mokuji |