金の指輪



 見えない血だまりの中、佇む彼女に声をかけた。

「おい、帰るぞ。」
「・・・。」

 もう少し、力を籠めれば首は千切れ、こわれた蛇口ように血を漏らしたろうに。今回のターゲットだった男が首に細いワイヤーを何本もめり込ませて息絶えていた。

 なんで俺が迎えに行かなきゃなんねぇんだよ・・・一人で帰ってこれる狼牙。

 スズは眼下に横たわる体、そこからのびる力ない腕をつま先で蹴飛ばしてから床にあった何かを拾って俺の元へと歩いてきた。
「なんだ、それ。」
 手に持っているであろうものが何か尋ねる。
「指輪。」
 ほら、と開いたスズの手にはなるほど悪趣味な金持ちらしいゴールドの指輪。
「そんなダッセェ指輪、どうすんだよ。」
「ちょっとね。」
「ふーん。」
 腑に落ちない。
 こいつの指じゃ細すぎて親指にしたってサイズが合わないだろう。それよりなによりこんな指輪はめるくらいなら俺が新しく似合うやつを買ってやる。



「おいおい、待てよ。」
 俺をほったらかして部屋を出ようとするスズの肩を捕まえる。
「・・・早く帰ろう。ここ、臭いのよ。」
 こちらへ振り向きもせずスズは吐き捨てるようにそう言った。俺がわざわざ迎えに来てやった事なんざ何とも思ってねぇのか!・・・というのは置いといて。

「おい」
「なに?」
「服着ろ、服。」
「あ。忘れてた。」

 素っ裸で気付かなかったって?こいつ頭大丈夫か?

「服・・・は、もう着れそうにないし・・・。」
 ふい、と投げた視線の向こう、息のない男が転がっているそばに破れたドレスが落ちていた。粗方、興に乗じた男が破いたのだろう。
「しょーがねぇなあ・・・これ着ろ。」
 俺は着ていたスーツのジャケットを脱ぎ、スズの肩にかけてやった。
 上着だけだが、この際文句なしだ。俺とこいつの身長差なら隠すところまでは隠せるだろう。
「ありがとう。ジャブラは寒くない?」
「気にすんな。暑いくらいだ。」
「そう。」
 スズは寒いのか、ジャケットの襟を顔に寄せた。そうやってりゃただの可愛い女なのになぁ。

「ジャブラ、どうしよう。このジャケット犬くさい。」
「うるせぇ!!」

 イー、と笑った顔は無邪気な少女そのもので、ジャケットで隠しきれない鞭の痕だとか殴打の痕が絶望的に似合わなかった。
 痕、残らなきゃいいな。白い脚を見て願った。


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[ 8/12 ]
mokuji

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