違うにおい



「スズ・・・」
「クザンさ・・・んふぅ」

 あぁ嫌だ。こんな可愛いスズに加齢臭がうつってる。キスしてる場合じゃないな、早いことバスルームに連れて行かないと。
 それに酔っぱらっているらしい。日本酒特有の芳醇な香りとトロンとした目を見るに、明日の二日酔いの可能性も考えなくては。


 そう、心にもない事を考えた。

 本心はこのままここで抱いてしまいたい。
 男を誘うために磨き上げられた身体。柔らかい肉は吸い付くようだ。そんな愛らしい体にあの男と古臭いタバコの臭いが染みついている。欲望と嫌悪の狭間で選択の天秤はゆらゆらとその身を揺らす。
 首筋に顔を埋めて甘噛みをしているといっそうその香りは強くなった。

「くすぐったい・・・!」
「そこは嘘でも気持ちいいっていわなきゃ。」
「っ! ぁ・・・」
 耳の付け根の目立たないところを一際強く吸って真っ赤なキスマークを付ける。スズの体は一瞬にして熱くなり俺のほうへとしなだれた。

「クザンさん、ここ、ドアですから。誰か来ますよ。」

「・・・ベッドがいい?バスルームがいい?」

「バスルームがいいです。髪がタバコ臭くって。」
 髪を少し手に取ってから、彼女は匂いを嗅ぐようなマネをして顔をしかめた。
「うん、そうしたほうがいい。」
 早くいつもみたいないい匂いのするスズに戻って。

 俺は片方だけ外した彼女のドレスの肩紐をもとに戻し、腕の中から解放してやった。


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mokuji

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