ひんやりとした木の廊下を進み、下駄に履き替え外に出る。 そこからほんの少し歩いたところに、白の湯はあった。
「うう、冷えました・・・早くお風呂に入らねば・・・」
「慌ててすべって転ばないようにね」
「はーい」
足元に気を使いながらもスズは白の湯への坂を足早に歩いた。 心なしか辺りにお酒の匂いがする気がする。
(それにしても、お部屋とこんなに離れているなんて温泉街をうろうろするような気分・・・)
歩けば歩くほど、酒風呂への期待が膨らんでわくわくと楽しい。 寒さですら楽しみに加わる。
とことこと坂を上っていると、右前方に人影が見えた。 道はすべて白い砂利を透かして照る足元の照明があり、その明りで相手の顔が少し見えた。 スズより少し年上のカップルのようだ。
(あの人達もお風呂なのかな?)
立ち止まってじっと見ていると向こうもこちらに気づいたようで、ちらりとこちらを見ると女性は男の影に隠れるようにして、二人はさっさと歩いて行ってしまった。
(・・・そっか、あんまり人を眺めるのはよくないよね)
自分の行動が相手に不快感を与えたと判断したスズは既に去ったカップルに心の中で謝った。
「スズちゃん、そこだよ」
「おお!」
ぼんやりとした提灯の明りに照らされて「白の湯」と書かれた文字が浮かび上がる。
「なにやらわくわくします」
この時、スズの頭には酒風呂を楽しむことしかなかった。
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