「壁一枚じゃ悶々としちゃうでしょう?」

「悶々・・・もん、もんと・・・?」

スズは怪訝な顔をした。

壁一枚では防ぎきれない音と声。
湯がぱしゃん、と音を立てただけでも耳が、意識がそっちへ集中してしまう。


(男ってのは本当に馬鹿だからなァ)

一糸纏わぬ姿をどうしても想像してしまうのだ。
血行が良くなり赤らんだ肌に弾ける水滴。


「いいんだよ別に。このままお風呂乱入騒ぎを起こしても「何を言ってるのか理解できません」


それに部屋備え付きの露天風呂なので乱入も何もありません。


「クザンさん・・・まだ夕方です」

「夜にならいいの?」

クザンがけろり、とした声でスズに尋ねた。
呆れるよりもその図太さに感心する。


「そういうわけではないですが・・・そういう話ってどうなのかなあ・・・」

「スズちゃん、まだ生娘気分?」

「うっ・・・」


確かにもう生娘のごとき純潔を保持してはいないにしろ、並みの女としての恥じらいは持ち合わせている。

その恥じらいがスズの髪をひくのだ。


「破廉恥なのはよくないですよ」

泊まりの旅行に誘っておいて何をいまさら、とスズは自分でも思った。
スズも・・・とくにクザンは、もういい歳をした大人だ。この旅行中『そういうこと』がないはずがないということは重々理解している。
それでも。

「猿に裸サービスしてるスズちゃんが何を」「わー!!」


理性と理解を行き来して気恥ずかしさを感じているスズを、ここぞとばかりに苛めるクザンの意地が悪いのだ。


「いいよね、猿は。何も怒られずにお風呂眺められて」

「なんですか、その子供っぽい拗ね方」


部屋の中で炬燵につっぷしているクザンの姿がスズの脳裏に浮かぶ。



「あとで一緒に外のお風呂行ってみましょうか、」

「そう言うと思ってお風呂予約しといたよ」

「? 予約・・・?」

(予約ってなに?)

女将さんはそんなこと言っていただろうか。


「白の湯っていう酒風呂があるんだって。ここの白く濁った地酒でするらしいから、前もって言っとかなきゃダメみたい。」

「ほほう、酒風呂!」

聞きなれないその名にスズの胸は踊った。


「好きでしょう、そういう珍しいの」

「はい!」


準備は大体夕食後に終わるようで、食事の後で楽しむことに決めた。


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mokuji

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