数十分後。


「んふふー」

口元を緩ませてスズは空を見上げていた。

「月が綺麗ですねえ・・・」

漆黒をそこだけくり貫いたようにぽっかりと光る月。
お猪口を片手にぼんやりと眺めるには実に贅沢な月であった。


んふふ、ふふ

浴場にスズの含んだ笑いが響く。


(見事に出来上がっちゃって・・・)


そんな彼女をクザンはヒヤヒヤとしながら眺めていた。


(危ないったらありゃしないんだから)


高く上がる月と顔を向き合わせているスズ。すでに立派な酔っ払いだ。いつ頭の重みにバランスをとられ、後ろに倒れてもおかしくない。

仮にもスズは能力者なので、後ろに倒れればそのまま簡単に溺死してしまう。

自身もほろ酔い状態であるが、クザンはいざという時のために彼女に目を光らせた。



「(大人しくしててくれればいいんだけど・・・)スズちゃん、溺れないようにね。飲み終わったんなら、それこっちに渡して」

クザンはスズからお猪口を受け取ろうと手を伸ばした。


「? ふふ、月が綺麗なんです。私なら溺れる前に全部飲み干せま、わっ」

ばしゃん!


妄言とも取れる言葉を発しながら、クザンのほうへ振り向いた勢いでそのままスズは湯船に沈んだ。

「!! あぁ、もう期待を裏切らないんだから!」

クザンはスズのほうへ急いで歩み寄り、白く濁る湯の中から柔らかな腕を掴み引き上げた。


「けふっ、ごほん」

「大丈夫?」


「・・・美味しかったです」

えへへ、とスズは笑った。


「もう一回沈む?」

「ううん、月の方がいいです。団子もいいですが花ですよ」

(・・・もう)

酔いでよくわからないことを言う彼女をクザンは抱き寄せた。


「クザンさん近いです」

「ほら、おいで」

「ん、」

スズに自分の首へ腕を絡ますように促し、自分は彼女の背中に手を伸ばす。

「む・・・」

腕を絡ませたことで触れるほど近づいたスズの唇をクザンはすかさずついばんだ。


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mokuji

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