5 呻き声
江南家の二階は寝室と子供部屋に分かれており、寝室は母と私たち三姉妹が眠るスペース。
子供部屋は私と上の妹が遊んだり勉強する部屋となっていた。
ある日、私が寝室で『暗闇の中で子供』(舞城王太郎)を読んでいると、隣室から
「うぁああぁ…うぅう…うあぁあ…」
と(多分)おっさんの呻き声が。
丁度、奈津川三郎が荒木一雄の指を切り落す場面だったから凄く驚いた。…今そのページ確認したら22Pだった。全然最初の方。
話を戻す。隣室では、確か妹が勉強をしているはず…と思いつつもそのまま読み続けた。
勉強に苦しむ妹の呻き声、と云う事で私の中で完結した。本当におっさんの声だったら怖いから、そういう事にしておいた。
今日、TVを観ていてラップ音の映像が出たので思い出し、その事について訊いてみた。
「(妹)が勉強しててさ、私が寝室で本読んでる時、『うあぁ〜…』みたいな声聞こえたんだけど、知らないよねw」
「あー…それね」
知ってるのかよ。聞こえたのか。
「勉強してて、転寝しちゃったんだよ。そしたら脳は動く気なのに体は動かなくてさ。マジ脳だけやる気あったの」
「金縛りって言えよ」
「で、その時声出そうと頑張ってたつもりだったけど、ちゃんと出てたんだね」
と云う事でした。
声の主が確かに妹だった事に安堵しつつ、アレは確実におっさんの呻き声だったよな…と思う自分もいたりする。
洒落にならない体験をしたのは、妹の方でした。
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