無題

シャワーを浴びていると妙に周りが気になる。時折シャワーを止めて浴室内を隈なく見るが、案の定何もない。
きゅ、と音を立てて蛇口を捻るとシャワーから水が出る。シャンプーを流す間も、その音がふっと女が笑う声に聞こえてしまったりして。こんな時に限って「誰かいる」とか「だるまさんが転んだ」を思い出す。私は壁を背にしてシャワーを浴びた。
早くあがろう、と思ってリンスもせずに体を洗う。外から わんっ と犬が吠えてびっくりする。怖い。何だかとても怖い。
蛇口を捻る。体を流す。また捻る。水が止まる。水が排水口に吸い込まれる、ずずっという音がしない。水が詰まったようだ。見ると髪の毛が詰まっている。自分の髪は短い。もしも、長い髪の毛がぞろりと出てきたら、自分は失神するかもしれない。
私は明日髪の毛を除去する事にした。
浴室のドアを開け、バスタオルを手にする。洗面所の鏡は出来るだけ見ない。
手早く拭いて下着を履き、早々に洗面所を出る。漸く出ることが出来た。リビングに入り、テレビの電源を入れる。

風呂場でコトリと音がした。気がした。

気の所為だ。何もない。

きゅ、きゅきゅ、

また音がした気がする。

しゃーっ…

水が出ている?
まさか、そんな訳はない。

見に行くか?
でも怖い。本当に出ていたらどうしよう。
水道代と恐怖を秤にかけ、止めるしかないという結論が出た。どちらにしろ、気の所為であることを祈りたい。

恐る恐る見に行く。洗面所に入り、電気に手を伸ばす。
…きゅきゅっ
水音が止んだ。止まった。
勝手に止まってしまった。
怖くて電気を着けることも出来ない。手を伸ばしたまま固まる。
きゅきゅ、しゃー…

また出て来た。もう無理だ。
私は踵を返して、電気を着けずに洗面所を出ようとする。

不意に、がん! ごとっ!と凄い音がして「うわあああっ」と隣室から悲鳴が聞こえた。どうやら大きなボトルのようなものを誤って落としたらしい。
何だ、隣人もシャワーを浴びていたんだ。

お化けなんて、いないんだ。

安心した私は、洗面所を背にしたところで、念の為蛇口を確認しようと、向き直って浴室の電気を着ける。




浴室のガラスに、べったりと張り付いた女がいた。







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