「わ、おいしいです!」
「そりゃァよかった。」

にっかりと笑ってリーゼントを揺らす彼は、
恐らく前にマルコさんが話してくれたコックさん。



どうしてこうも、貴方の体温は。



「ヒロちゃん、って言ったっけ?」
「あ、はい!サッチさん、ですよね?初めまして。」

サッチさんが持ってきてくれたお粥を一度サイドテーブルに置いて、
ベットの上にしっかり正座をして頭を下げた。

「こりゃどうもご丁寧に。」

そう言うと、サッチさんはもう一度、にっかりと笑って、
綺麗に揃えて伸ばした指先をす、と真っ直ぐ肩の高さに上げたあと、
その手を脇腹辺りに持って行ってスマートなお辞儀を返してくれた。

「わ、王子さまみたいですね!」

にっこり笑ってそう言えば、
わたしのいるベットの足元辺りに座っているマルコさんが
そんないいモンじゃねえだろい。と、つまらなそうな顔をして言った。

「え、それマルコさんが言うんですか?」

言うにしても、普通本人が言いません?

眉を寄せて首を傾げれば、サッチさんが
まぁいいから、食べて食べて!
とお粥を勧めてくれるから、再び絶品お粥を口に運ぶ。

それにしても美味しいお粥だなぁ。
お粥ってあんまり好きじゃなかったけど、
これだったらいくらでも食べられる気がする。

食べながら、自然と頬が緩む。

それを見たサッチさんが、ヒロちゃんは美味しそうに食べるね、なんて声を掛けてくれた。

「おれ、ご飯を綺麗に美味しそうに食べる女の子大好き。」

ヒロちゃんおれと付き合わない?
なんて軽い調子で言われて、思わずむせた。

「ぶ!げほっ、なに言ってんですか!」
「ああ、ヒロ、無理に喋んなよい。」

これ飲め、とマルコさんが出してくれたお茶を慌てて飲む。

「…ぷは、ありがとうございます。」
「…こいつは誰にでもこんな調子なんだ、本気にすんなよい。」
「や、流石にいまのを本気にするひとは居ないとおもいます。」

顔の前で手を左右にひらひらさせれば、
えー、酷いなァ、なんてサッチさんが唇を尖らせるから笑ってしまった。

「…あ。」
「ん?どうかしたかい?」
「あの、四番隊の隊長さんて、どこにいらっしゃるかわかります?」
「…ここに居るよい。」

…ん?
あれ、確かマルコさんは一番隊って言ってたから、つまり、

「…え、サッチさん?」

軽く目を見開いてサッチさんを見遣れば、
立派すぎるリーゼントを誇らしげに揺らして、サッチさんが頷いた。

「…サッチの馬鹿に何の用だよい。」
「え?ちょっとおれの扱い酷くない?」
「や、あの、わたしをここに連れてきてくれたのがお二人だって聞いたので。」

もう一度正座をし直して、ありがとうございました。とベットに頭をつけた。

「…ヒロ、身体痛ェんだろい、大人しく座ってろい。」
「ぶふっ、なに照れてんだよマルコ!」
「煩ェよい、この色ボケコックが!!」

そんなやりとりが可笑しくて頭を上げれば、
少しだけ耳の赤いマルコさんがサッチさんの脛を蹴りあげて入れていた。
ぎゃう!となんとも言えない悲鳴をあげてサッチさんが蹲る。
あの、照れ隠しにしてもやり過ぎなんじゃ…!

思わずおろおろするわたしに、少し涙目のサッチさんが
「だーいじょーぶ、これスキンシップだから!
コイツが本気で蹴り飛ばしたら人一人なんて簡単に吹っ飛ぶぜ!」
と、笑顔で親指を立ててみせてくれたのだけど、
え、なにそれどこから突っ込んだらいいの?な内容にぽかんとして
はあ、なんて気の抜けた返事しか出来ない。

「昨日なんて凄かったんだから!」

昨日?と首を傾げれば、ヒロちゃんを助けたときだよ、とまた笑う。
よく笑う人だなぁとおもいながらなんだか釣られて笑ってしまう。

「余計なこと話すんじゃねェよい、馬鹿が。」
「え、余計なことじゃなくてお前の武勇伝だろ。」
「もうお前出てけ。」
「えー、なんでよ。おれだって女の子とお話したい!」

ぶー!と唇を尖らせるサッチさんに、マルコさんは
おっさんがンな顔しても気色悪ィだけなんだよい!と言って
ドアの外に放り投げてしまった。

わたしはと言えば、閉められたドアの外から聞こえる
ヒロちゃーん!あとでまたお話しようね〜!
と言うサッチさんの声に、はは、と乾いた笑いを漏らすことしか出来なかった。


再びベットの足元に腰掛けたマルコさんが、
ぽん、と一度わたしの頭を軽く叩いて、そのままするりと頭を撫でる。

(…ああ、なんか、やっぱり安心するなぁ。)

ゆるりと頬を緩ませて目を閉じる。
一瞬、マルコさんの手がぴくりと動きを止めたけど、
すぐに頭を撫でる動きを再開した。

「…騒がしくして悪ィな。」

ぽつりと落とされた言葉に、ぱちりと目を開ければ、
そこには眉を下げて苦笑するマルコさんがいた。

「ふふっ、大丈夫ですよー、重病人なわけじゃ無いですし。」

見てる分には楽しかったですよ、と笑って言えば、
マルコさんの手が大きなガーゼがいっぱいに貼られた左の頬をそっと包んだ。

「…痛々しいな。」
「うーん、ちょっとご飯は食べ辛いですけど、」

筋肉痛の方が遥かにキツいんで全然大丈夫ですよ。

へらりと笑った瞬間に、わたしはマルコさんの腕の中にいた。

「いだ…っ!」
「煩ェ、我慢しろよい。」
「ちょ、マルコさん力込めないでくださいいたい!」

「…無理して笑うなって、言ったろい。」

耳元で響く低い声に、自分でも解るくらい身体が強張る。

「…だって、笑って、なかったら、」

こんな意味のわからない状況、どうしたらいいのかわからない。

「…なかったら、なんだよい。」

震える手でぎゅう、とマルコさんのシャツの裾を握れば、
わたしの腰に回されていたマルコさんの手が、シャツごとわたしの手を包む。

「ッ、泣い、ちゃ、」
「泣けよい。」

もう片方の手で後頭部をマルコさんの胸に押し付けられて、
そのまま頭を優しく撫でられたら、涙なんか止められる訳が無くて。

「…ッふ、ぅ、ごめ、なさ…っ!」
「…謝んなくていい。」
「だ、て、マルコさんは、泣かなかった、のに」
「おれとお前とじゃ、状況が違うだろい。」
「でも…っ、」
「もう、いいから。」

大丈夫だ、こっちの世界での事は心配すんな。
おれがどうにかしてやる。
もう二度と、あんな目には遭わせねェよい。

そんなマルコさんの言葉を聞きながら、
わたしは散々マルコさんのシャツを濡らした。
















ほんとうは、怖くて恐くて仕方なかったんです。
途切れ途切れに伝えれば、もう大丈夫だ、と優しい声が降ってきた。

(相変わらず、泣き虫だねェ。)
(…そんなの、初めて言われました。)ずび
(へェ、こんなに泣くのにかい。)
(これは、マルコさんが泣かすから…ッ)
(…ん?)
(…なんでにやにやしてんですか。)



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