※オリジナルキャラクター登場します。













頬の鈍い痛みにゆっくりと目を開ければ、
目の前に広がったのは見慣れない木目の天井だった。


(…ここ、どこ?)



こんにちは異世界。



そういえば殴られたんだっけ。
痛みを覚えた頬に手をやれば、布のような感触がした。

(…ガーゼ?治療、してくれてある。)

きょろりと視線だけで周りを見渡せば、
綺麗な白い壁に、幾つか並んだベット、
自分の腕から延びた点滴に、医療機器と思われるものが目に入った。

(病院…?)

…あれ、そもそもわたし、ああそうだ、気を失って、あとの事がわからない。

わたしをどうにかしたあとにご丁寧に病院に運んでくれるような
優しい(?)人達だったんだろうか、あの人達は。

それにしてもなんでこんな全身怠くて痛いのか。
…ああ、わかった、筋肉痛か。筋肉痛だ。
うん、全力で走るなんてもう何年前が最後だったか思い出せないもんな。
それにしてもがっかりするわ。(自分の身体に。)

よっこらしょ、と無理矢理上半身を起こせば、
何故か腕まで筋肉痛になっていて思わず声が出た。

「い゙っ…!」

"たい"は最早言葉にすらならない。

思わず蹲るような格好になったときに、
すぐ近くで扉が開いて、カツカツとヒールを鳴らす音が響いた。

「あら、目が醒めたのね。」
「…?」

鈴の鳴るような声が響いて、ゆっくりとそちらを見れば、
ダイナマイトボディーな栗色の巻き髪の白衣の天使が
ドアを閉めてこちらに近づいてくるところだった。

「わあ…、超タイプ。」

思わず呟けば、タイプ?と頬に手を添えて可愛らしく首を傾げられた。
透き通るような翡翠色の目で見つめられて、同性なのにドキドキする。

「お姉さん可愛いですね。」
「え、貴女女の子よね?」

うっかり真顔で言えば、少しぎょっとされた。
しまった、あまりの可憐さに言葉が抑え切れなかった…!

はは、と笑ってごまかせば、綺麗な白い手がわたしの額に充てられる。

「ん、熱は下がったわね。」
「え、わたし熱あったんですか。」

極度の緊張と疲労から来てたのね、きっと。
言いながら、お姉さんがあんまり綺麗に笑うから、思わず言葉を失った。

カルテらしきものになにやら書き込んでいるお姉さんに、
すみませんが、ここはどこですか?と訪ねてみた。

「ここは船の上…モビーディック号の医務室よ。」
「船、…もびー、でぃっく?」

この感覚には覚えがある。
マルコさんと最初に会ったときの感じだ。
嫌な汗がつ、と背中を伝う。

「…あの、わたし、どうやってここに来たんでしょう?」

恐る恐る聞いてみれば、

「うちの隊長さん達が連れて来たのよ。」

とにこやかに教えてくれた。

「たい、ちょう、さん…?」

思わず復唱してしまったわたしに、お姉さんは更に追い撃ちをかけた。



「白ひげ海賊団、って知ってるかしら?」



まさか、まさか、まさか。

「…知ってる、けど、知りません。」

なんとも言えないわたしの答えに、
お姉さんは再び可愛らしく首を傾げる。

でもわたしにはそうとしか言えないのだ。

ぐらぐらし始めた頭を抑えながら、再びお姉さんに問い掛ける。

「…あの、わたしを運んでくれた、隊長さん、て、」


「一番隊の隊長さんと四番隊の隊長さんよ。」


いちばんたい、たいちょう。

「…マ、ルコ、さん…?」

久しぶりに口にする名前に心臓の動きが一気に早くなる。
思わず心臓の辺りを抑えた。

そんなわたしを気にするでも無く、お姉さんは口を開く。

「あら、やっぱり知り合いなの?」
「やっぱり、って…?」
「マルコ隊長、いままで一度もこの船に人を連れて来たことないのよ。」

特に女の人は、『女はすぐに惚れただなんだと抜かすから面倒臭ェ。』
なんて言って絶対連れて来ないのよ。

にっこり笑う彼女の可愛さと内容の衝撃に頭を鈍器で殴られた気分だ。


「え、マルコさんてモテるんですか。」

頭パイナップルなのに。


思わず真顔で呟けば、目の前の天使が噴き出して、
あはははは!とよく通る声で笑った。
そんなに笑われるとおもわなかったから、ちょっとびっくりした。

「貴女面白いわねぇ!気に入っちゃったわ。
あたしエレノア。ね、名前は?」

わたしの顔を覗き込むようにしたお姉さ…エレノアさん、に、
少しだけ矢野の姿が重なる。

ヒロです、と答えたのと同時に、
エレノアさんが出て来たのとは別の扉が勢いよく開いた。













びっくりして勢いよく振り向けば、
そこにはあの特徴的な頭の彼。


(ヒロが目ェ醒ましたって?!)
(隊長さん、ドアは静かに開けてくださいな。)




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