※流血・暴力表現等ありますので
苦手な方はご注意ください。













ヒロの世界から帰ってきて、3ヶ月が経った。

戻ったばっかりの頃は長ェ夢でも見てたのかと疑ったが、
自室から出たときのクルー共の驚きっぷりや、
隊長共やオヤジの態度に、

なにより、
手元に残ったあいつの携帯や、
あちらで買ってもらった服に。

いまもはっきり思い出せる手の温もりや、
手触りの良い髪の感触に。
…確かに感じた、愛しいと思う心に、

あれは現実だったのだと思い知らされる。



まさかの再会。



「よォ、相棒!元気ねえなあ!!」

船縁で何をするでもなく海を眺めていれば、勢いよくバシン!と背中を叩かれた。
痛む背中を摩りながら振り返れば、うざってえリーゼントが視界を覆う。

「…痛ェんだよい、この馬鹿力が。」

ぎろりと睨みつけるも、この馬鹿に効くわけも無く。

「なんだよー、恋の悩みならサッチ様が聞いてやるぞ?」

むん、と胸を張るこのウゼェおっさんはなんなんだ。

テメェに相談するようになったら終わりだよい、と溜息混じりにいえば、
まぁまぁそう言うなよ、なんて肩を組んできやがる。


「今日の昼には次の島に着くらしいからよ、気晴らしに行こうぜ!」

こいつの気晴らしと言えば、娼館か酒場と相場は決まっている。

…が、まあ、これでこいつも気を遣ってくれているのだろう。

どうやら最近のおれはこいつに心配される程度には元気が無いように見えるらしい。


(…別の女でも抱けば、ちったァ気分も変わるかねェ。)


ぼんやりと考えながら、サッチに向かってひらひらと手を振って船室に戻る。



途中急なサイクロンを避けたりなんだりで、
島に着いたときにはもう辺りは暗くなり始めていた。

「…こりゃァ、物資の調達は明日にならねェと無理そうだなァ。」

顎髭を触りながら言えば、隣に立っていたサッチが
早く遊びに行けていいじゃねェかと暢気に笑った。

「さ、行くぞマルコ!」

目に見えてうきうきしたリーゼントが船を降りて、
颯爽とおれの腕を引いて歩きだす。


…と、娼館に着く手前の、昼間は賑わっているのだろう町の方からなにやら話し声がする。

(…女の声、と男の笑い声。)

暗くなってきた空に、人が通らないのであろう場所から聞こえる悲鳴。
何が起こっているのかなんて、容易に想像がつく。

普段なら、気が向いたら助ける程度のことだが、
その声に聞き覚えがある気がして、サッチを呼び止めて声のする方に向かう。

(…まさか、な。)

声が似ていると言うだけで助けようだなんて、おれも相当焼きが回ってる。

ぶうぶう言いながら後ろをついて来るサッチに構わず歩みを早くすれば、
すぐに見えた想像通りの光景に溜息が出た。

「…おい、何胸糞悪ィことしてんだよい。」
「げぇ…っ、不死鳥マルコ…!!」

女の上に跨がっているそいつを蹴り飛ばして、
見えた顔に、おれは思わず動きを止めた。





「……………………ヒロ?」





自分でも驚く程掠れた声が出た。
目の前でぐったりと倒れているのは、確かにヒロだ。

「なんだ、知り合いか?」なんて暢気な声を出すサッチを無視して彼女に走り寄る。

よく見れば細かい傷が身体中にある。
右足にデカい切り傷はあるし、顔は少し腫れて、口の端からは血が流れている。

(…呼吸、は、ちゃんとしてる。)

ヒロ、と何度か呼び掛けて頬を軽くぺちぺちと叩けば、
ん…、と小さく唸って眉を寄せる彼女を見て少し胸を撫で下ろした。

下着姿の上半身に自分のシャツを被せて、
汗で顔に張り付いた髪をさらりと避けてやる。

久しぶりの感覚に目眩すら覚えると同時に、
例えようの無い怒りが身体を支配する。

サッチに気を失ったままの彼女を預けて、そこで待ってろと言ったあと、
一連の流れを固まったまま見ていた野郎共に向き直る。

本当は一刻でも早く彼女を船医に見せるべきなのだろうが、
あんな姿の彼女を見て黙ってこいつらを帰せる程、おれは人間出来ちゃいねェ。

「…あいつを殴ったのァ、どいつだ。」

ドスの効いた声で問えば、そこに居た男共全員が
先刻蹴り飛ばして気絶したままの男を指差した。

ちらりとそちらに目をやってから、足元に転がったナイフを拾う。

「こいつを投げたのは?」

ナイフを両手で弄びながら問えば、今度は別の男が指差された。

瞬間、そいつを全力で殴り飛ばす。
男の身体は軽く吹っ飛んで、気絶した。
横にいた男共はひっ、と息を呑んで腰を抜かしている。


「…テメェ等全員、地獄の方がマシだったと思わせてやる。」


そいつと、そいつは特にな、と既に気を失った二人を指差せば、
残りの男共はがたがたと震え出した。












「あんまりやりすぎるなよー」と言うサッチの声には、聞こえない振りをした。

(で、この子だれなのよ。)
(…そんなことより船に戻るよい。)
(ぇええ!おれも?!)
(ヒロが目を醒ましたら飯が居るだろうがよい。)
(!!お前馬鹿、おれ明日船番なんだぞ…ッ!)



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