「なんか持ってくものとかあるんですか?」 「あー…、いや、必要な物があれば現地調達すりゃァいいだろい。」 そういうものなんですか、と頷きながら、化粧ポーチと 白ひげさんに頂いたお小遣い(雑用手伝いをしてたらくださった)をエレノアがくれた小さな肩掛けのバッグに詰め込む。 「じゃァ、出発しようかね。」 「はいっ!」 …で、小船とか見当たらないんですが、どうやって? あおいとり 甲板の船主近く。 前には身ひとつで立っているマルコさん。 後ろには白ひげさんや各隊の隊長さん達。 はて、と首を傾げるわたしの前で、マルコさんは少し困ったように笑って、左手をす、と胸の高さに上げた。 ボボ、と空気の爆ぜる音がして、マルコさんの手の甲から肘にかけての輪郭が曖昧になる。 それと同時に、青い炎がマルコさんの腕を包んだ。 海の青と空の青を混ぜ合わせたみたいな、不思議なあお。 「…わ、」 ただただ目を丸くするしか出来ないわたしの前で、あっという間にマルコさんの両腕が青い炎に変わる。 ああ、遠目だったからあんまりわからなかったけど、海王類が出たときのエースもこんな感じだったのかも。 複雑な顔で微笑むマルコさんに、怖いかい?と聞かれて、殆ど無意識に首を横に降った。 「綺麗、ですね。」 まるでなにかの引力でも働いているかのように引き寄せられて、 ふらりふらりと青い炎に向かって歩みを進める。 そっとマルコさんの腕だったそれに触れると、マルコさんの身体がびくりと震えた。 (熱くはないんだ…。) でも、あったかい。 触れたあとに、そういえばなんにも考えずに触っちゃったな、と 今更ながらマルコさんを仰ぎ見れば、そこにはなんとも形容し難い顔をしたマルコさんがいて。 (…なんて顔、するんだろう。) 見てるこっちが泣きそうになるような、微笑いたくなるような、複雑な顔。 炎に触れていない方の手をマルコさんの頬へと伸ばして、やんわりと一度頬を撫でる。 炎になった腕に強く抱き寄せられたと感じた刹那、目の前にあった身体総てが青の炎に包まれて鳥の形をつくった。 「わ、ぁ…!!」 全身綺麗な青なのに、頭の天辺はあの奇妙な金髪と同じ色で、眠たげな目は相変わらず。 信じ難い光景を見ているハズなのに、わたしはそれが確かにマルコさんなのだと疑わなかった。 ――再生の炎を纏って、不死鳥になれる―― いつかのマルコさんの声が耳に蘇る。 もっと小さい鳥になるのかとおもってたのに、目の前の青い炎を纏った鳥は、人の形のときのそれより遥かに大きい。 (人が乗れそうなくらい大きいとはおもわなかったなぁ。) 向こうの世界のわたしの家でこの姿になってたら大変なことになってたかも、 なんてどうでもいいことを考えながら、緩む頬もそのままに、 鳥になったマルコさんの首に抱き着いて幾度か頬擦りした。 ふわふわ?ふかふか?なんか上手く形容出来ない感触だけど、気持ちいい。 飛べるんですか?と聞いてみると、その頭が肯定を示すようにこくりと一度縦に揺れて、次いで嘴で自身の背の方を指す。 「?、乗れ、ってことですか?」 またひとつ、縦に揺れた頭。 えぇと、…背中に跨がればいいの、かな? おずおずと彼の背中の側にまわって、本当に乗りますよー重いですからね!と声を掛けたあと目の前の大きな青をよじ登った。 それを確認して「お、やっと出発か。」なんて茶化すようなサッチさんの声が聞こえて、なんだかちょっと恥ずかしくなる。 「これ貸してやるから、なんかあったらすぐ連絡しろよ!」 「ぅえ?!なに、カタツムリ…?!!」 わたしの肩に掛けているポーチを勝手に開けて、中にぐいぐいとカタツムリのようなもの (話に聞いていた電伝虫だということは後から知った)を押し込むエース。 おれ直通だ!とあの太陽のような笑顔を見せられてしまえば、同じように笑って頷くしかない。 白ひげさんの近くではイゾウさんとハルタくんとビスタさんがなにやら楽しげに笑っている。 「ヒロちゃん、マルコに襲われないように気をつけてな!」 「ふは、それは無いですよー!」 ひと月近く同じ部屋で過ごしてなんにも無かったのに今更なんかあるわけないじゃないですか。 …まぁ、この数日後に風邪引いて朦朧としたマルコさんに襲われかけるんだけど、それはまた別の話で。 サッチさんの言葉を笑い飛ばせば、マルコさんの背中がぐらりと揺れて、 慌ててマルコさんの首に腕を回してしっかりと捕まった。 ばさ、と炎の翼が大きく動いたあと、少しの浮遊感。 ぐわんと旋回するように動いたマルコさんの鳥足がサッチさんを蹴り飛ばしてから、高度が上がりはじめる。 「うわ、と、いってきますー!」 「気をつけて行ってこい、アホンダラァ!」 グラララララ!と相変わらず豪快に響く笑い声に押されるようにして、 大きいはずのモビーがぐんぐん小さくなっていった。 エースとサッチさんが両手を大きくぶんぶん降ってくれているのが見えて、小さく笑いが漏れる。 モビーが見えなくなってから視線を前へと移せば、そこには体験したことの無い世界が拡がっていた。 言葉を失う程の絶景、って、本当にあるんだ。 ごうごうと風を切る音が耳に響く中、キレーですねー!!と声を張り上げれば、振り向いたマルコさんの瞳がゆるりと細まった。 ←→ |