※流血・暴力表現等ありますので
苦手な方はご注意ください。













「ぎゃああああああ!!!」

いまわたしは絶叫しながら全力で走っている。
そしてそんなわたしの後ろには、
どうお世話を言おうとも
ガラが悪いとしか言いようの無い男が数人。

何故そんな状況なのかって?

それは是非、わたしが教えて頂きたい!!



あれ、なんかこんな話聞いたことある。



遡ること数分前。

わたしは図書館に居たはずだった。

それというのも、マルコさんを思い出すものをなるべく避けるように生活していたら
マルコさんが帰った前の日に図書館で借りた本を返すのを忘れていて、
図書館から電話が掛かってきたのである。


わたしは急いで本を持って図書館に向かい、
コメツキバッタの如く頭を下げて本を返却した。


いまにしておもえば、そこで回れ右して大人しく帰ればよかったのだ。


うっかり感傷に浸って、洋書コーナーに行ってしまったのが間違いだった。


マルコさんが最初に見ていた航海日誌を見つけて、
棚から取り出して適当なページを開いて文を追ってみる。

(…やっぱり何書いてあるのかわかんないなぁ。)

マルコさんが居た頃に少し英語の勉強をし直してみたりしたのだけど、
マルコさんが日本語を覚えていくスピードの方がよっぽど早かったから
それに頼ってしまって結局あまり成果は出ていない。

ぱたり、と軽い音をさせて本を閉じる。

本を戻そうと視線をあげたときに、ふと、目に入った本があった。


綺麗な、深い青の装丁の本。


(…先刻まで、こんな本あったかなぁ。)

特に深く考えず、手に持っていた本を元の場所に戻して青い本を手にとる。

(Grand line…グランド、ライン?)

どこかで聞いた気がするけど、どこだったっけ。

考えながら、その本を開いた瞬間。


どこで聞いたかを思い出すと同時に、
突風に吹き飛ばされた。






「わあ!!!」

暫く浮遊感が続いたとおもったら、
突然の落下する感覚。

ドスン!と音がして、わたしは思い切りお尻を打ち付けた。

「ッ、いったぁ…」

お尻を摩りながら立ち上がろうとして、異変に気付く。

(…あ、れ?)


地面が、砂利だ。
恐る恐る視線を上げていけば、目の前にあるのは
本棚ではなく、あからさまな悪役顔の男が数人。
そして、その後ろには木、木、木。

(森?林?ていうか、いつの間に屋外に…)


「…あ、の?ここ、どこ、ですかね?」


ぽかんと口を開けてわたしを見る数人の男に尋ねてみれば、
はっと正気を取り戻したかのような彼等。

次の瞬間、爪先から頭の天辺まで舐めるように見られたとおもったら、
ニタァ、という表現がぴったりの顔で笑った。

「教えてやっても構わねぇが、それなりの駄賃をくれねぇとなァ。」

言いながらにじり寄ってくる男を見た瞬間、
これはマズイとわたしの中の第六感的なものが働いて、
足元の砂利を男の顔に向かって投げつけたあと、
ほとんど無意識に、全速力で走り出していた。

「ぶわっ!何しやがるテメェ!!!」
「待てゴルァア!!!」

「ぎゃああああああ!!!」

誰が待つか!!
口々に汚い言葉を吐きながら追い掛けてくる男達を見る余裕もなく、
全速力で木々の間を走り抜けるわたし。

ものの見事に冒頭の状況の出来上がりである。

どのくらい走り続けたのか、気付けば小さな町みたいなところに出ていた。

「…だ、だれ、か、」

たすけて、と言いたいのに、
ぜぇぜぇを通り越して、ひゅぅひゅぅ言いはじめた喉はうまく言葉が出ない。

走り続けた足は、がくがくと震えていてもう限界だ。
大体、普段運動なんかしないんだから、こんな急に走らされても困る。

それにしても、ここが町のメインストリートっぽいのになんでこんなに人が居ないんだろうか。

(…せめて、隠れなきゃ。)

隠れられそうな場所を探そうと歩き出した瞬間、
足に鋭い痛みが走って、思わず座り込む。

「いッ…!!」

痛みが走った部分に手をやれば、ぬるりとした液体に触れた。

(…え、血、)

ふと影が射して顔をあげれば、そこには見覚えのある複数の男。

「見ぃつけた♪」
「、ッ!」

にやにやと距離を詰めてくるのを見て反射的に逃げようとした身体は
目の前にいた男にいとも簡単に押さえ付けられた。

「っや…!」

全力で暴れている筈なのに、わたしのお腹の上に馬乗りになった男はびくともしない。

「や!だってよ、かーわいい。」

下品に響く笑い声に吐きそうになる。

「なァ、おれに向かって砂投げつけたのは許してやるよ。」

仲良くしようぜ。

そう言うと同時に、男はわたしのTシャツの襟首を掴んで、
その手を一気に下に引いた。

「っきゃあ!」

ただの布切れと化したそれを男がポイと放り投げるのを見て、
一気に身体を恐怖が支配する。

「や…っ、やだやだやだ放してッ!!」

近くに落ちていた自分のバックを掴んで、思い切り男にぶつけた。

「…ッてぇな、このアマ!」

ガツッ、と音がして、口の中に鉄の味が広がった。
視界がぐにゃりと揺れて、ああ、殴られたのかと一瞬遅れて脳が理解する。

「おい、意識失っちまったらつまんねぇだろ。」
「優しく扱えよ。」

相変わらずの下品な笑い声が、どんどん遠くなる。


(…ああ、もうだめだ。)












遠退く意識の中で、あなたの声を聞いた気がした。

(…おい、何胸糞悪ィことしてんだよい。)
(げぇ…っ!不死鳥マルコ…!!)



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