なんと言いますか、ほら、ね。
わたし、こんなんでも一応、性別:女子なんですよ。

好きなひとと同じベッドで寝るとかさ、ドキドキしないわけが無いわけですよ。ね。

まぁ隣からは健やかな寝息が聞こえてきてるんですけどね。
わたしったらどんだけ女として意識されてないんだって話ですよ。



心臓が、どうにかなりそうなのです。



お風呂帰りに擦れ違ったエレノアに、今日一緒に寝たいなってお願いしたら、にっこり笑ってあっさり断られるし、
本当に空き部屋他に無いんですかってマルコさんに聞いたら無いって即答されるし、
わたしソファーで充分ですからってソファーで寝ようとしたら(大きさ的には本当に充分なのに)、
「ベッドで寝ねェんならゴ●ブリと添い寝させるよい。」(酷すぎる!!)とか見たことも無いような清々しい笑顔で脅されて、
まあ結果同じベッドに並んで横になってるわけですが。

最初はベッドの隅と隅で寝てた筈なのに
暫くしたら寝ぼけたマルコさんに背後から抱きしめられて、
いまのわたしは差し詰め彼の抱き枕状態です。

(ドキドキしすぎて寝れないってのよ、馬鹿!!!)

寝てるマルコさんを起こさないように、
でも耐え切れない羞恥心から逃げるように、
自分の顔を両手でわっ!!と覆う。

一緒の布団に収まって寝るのは三回目(多分)になる訳ですが、
でもいままでは状況とかなんか色々あって、
なんか一緒に寝ても気にならない雰囲気だった
(もしくは覚えてないから気にしようが無かった)んだもん!

腰にがっしり回された筋肉質な腕だとか、

背中に布一枚隔てて感じる肌の感触だとか、

規則的に項に掛かる寝息だとか、

全てに心臓が壊れそうなくらいドキドキしてしまってどうしようもない。



そんなこんなで、偶にうつらうつらしつつも、
ほぼ眠れないままあっという間に窓の外の空は白んできて。


どうやら相当ぐっすり眠っているらしいマルコさんの腕をそうっと抜け出して、
こっそり着替えを済ませて、こっそり部屋を出る。

(マルコさんが目を醒ますまであのまま待ってるとか無理無理!)

そんなことしたら、マルコさんが起きるより先にきっとわたしの心臓がどうにかなってしまう。

一度深く息を吸って、心地好い涼しさの廊下を、なるべく足音を立てないように進んで甲板ヘと出れば、
何人かのクルー達がモップとバケツを手に甲板の掃除に取り掛かろうとしているところだった。

…皆いい人なのはわかってるんだけど、やっぱり見た目が厳ついっていうか、怖い。
ついでに言えば、そんな人達が掃除道具を持ってぞろぞろと歩く様は、失礼ながらどことなくシュールだ。

意を決して、その中で指示を出しながら歩く、
見覚えのあるドレッドヘアの人に話し掛ける。
えぇと、確か隊長さんの…ラクヨウさん、だったかな。

「…あの!おはようございますっ。」
「あ゙?…あァ、あー…、ヒロ、だったか。」

若干苛立った様子で振り向いたその人は、視界の中にわたしの姿を認めると
わたしを怯えさせないようにと、恐らく彼の中で精一杯なのだろう笑顔を作って挨拶を返してくれた。

気を遣わせているんだなあとおもいつつも、
その笑顔がこの船に乗ることを許されているみたいで嬉しくて、自然と頬が緩む。

「甲板のお掃除するんですよね?」
「あァ、新人やら雑用の仕事なんでな。」
「あの、わたしもやらせて貰えますか?」

ぴたりと固まってしまったその人に、迷惑ですかね…?と再度声を掛ければ、
はっとしたようにわたしを見て、迷惑ってことはねェが、と首を横に振った。

「お前はオヤジの客人だろ?客人にそんなことさせるわけにはいかねェよ。」
「え、でも、ただ乗せて貰ってるだけとか申し訳なさ過ぎて居た堪れないので…!」

お願いします手伝わせて下さい、と頭を下げれば、頭の上から仕方無ェな、と溜息混じりの声が降ってきて、
ぱっと顔を上げれば悪戯っぽい笑顔を浮かべて人差し指を軽く口にあてるという、
厳つい身体には不釣り合いな動作をしながらオヤジとマルコには内緒だぞ、と
小声で言うもんだから、はい、と返事をしながら笑ってしまった。

一通り掃除の仕方を教わって、広い甲板をモップで擦りながら進む。

(この掃除だけで結構な運動だなあ…!)

すぐに息が上がり始めたわたしに、一緒に甲板掃除をしているクルーの人達が笑いながら
「なんだ体力ねェなあ!」とか「あんまり無理すんなよー。」とか声を掛けてくれる。

ほっこりした気持ちで掃除を進めて、漸く終わりが見えてきたところで、
船内へと繋がる扉が物凄い音を立てて開いた。

吃驚してそちらを見遣れば、そこにはなんだか切羽詰まった顔のマルコさん。

ラクヨウさんのげ、と言う声が聞こえて、
あ、マルコさんと目が合った、とおもった次の瞬間には
なんの手品なのだか、わたしはマルコさんの腕の中にすっぽりと納まっていた。

「マ、ルコ、さん?あの、苦し、」

いつもは相当力を加減してくれてたんだなと実感する程度には苦しくて、
それを訴えるも、腕の力を緩めてくれる気配は無い。

黙ったままぎゅうぎゅうとわたしを抱き潰す勢いのマルコさんの背中にそっと手を回せば
マルコさんの身体が大袈裟なくらいびくりと揺れて、ほんの少し、腕の力が緩んだのがわかった。













帰っちまったのかと思ったよい、とわたしの耳元で呟いた彼の声は切なくなるくらい弱々しくて。

なんかもう、心臓とか鳩尾とか、なんか色んなところがぎゅうぎゅう痛い。




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