マルコさんと交代でお風呂に入って、食堂でお夕飯を頂いて、
その頃にはマルコさんの機嫌も直っていた。

マルコさんと何か話しをしながらマルコさんの部屋に戻ったところまでは何となく覚えてる。

で、わたしはソファに座って話してる途中で眠くなって、そのまま眠ったはずなんですが、
何故いまベッドで寝ているうえにマルコさんに後ろから抱きしめられているのかという話です。



突然の、



「ま…マルコさーん…、おはようございまーす…。」

控え目に声を掛けてみるも、返ってくるのは健やかな寝息だけで、
マルコさんが起きる気配はない。

腰に絡まるマルコさんの腕をそっと退けてベッドから出ようと試みたけど、
更に抱き込まれてしまって抜け出せそうにない。

自分の肩越しに後ろを振り返れば、すぐそこにマルコさんの寝顔があった。

(…わ、寝顔、久しぶりに見たなぁ。)

向こうに居たときには割とよく見ていた気がするけど。

睫毛も金色なんだなぁとか、目尻にちょっと皺があるだとか、
変な形の眉毛だなぁとか、寝顔はほんの少し幼く見える気がするだとか、
暫くまじまじとマルコさんの顔を眺めていたら、彼はもぞりと動いて
わたしの肩に額をつけるようにしてしまって顔が見えなくなってしまった。

「…ふふっ。」

マルコさん子供みたいだなぁ。

なんだかほわほわと暖かい気持ちになって、一人で笑ってしまう。

と、そこで突然マルコさんの部屋のドアが勢いよく開いた。
驚いてそちらを見遣れば、そこにいたのはリーゼントの彼で。

「マルコ!…って、あれ、ヒロちゃん?なにその体勢どういうこと…?!」
「え、や、あの、なんでもないんです…っ。なんか知らないうちにこうなってまして!」
「は?!マルコに無理矢理致されちゃったとかそういうこと?!」
「え?!!いやいやいや違くて!!」

サッチさんと二人でテンパってあわあわしながら
必死でマルコさんの腕から逃れようとするも全然腕が離れてくれない。

後ろからチッ、と大きな舌打ちが聞こえて、すぐあとに低めの声が響いた。

「…サッチ、下らねェ用件だったらぶっ飛ばす。」
「マルコてめェ…起きてたろ。」
「テメェの汚くて無駄にデケェ声で目が醒めたんだよい。」
「嘘つけ!…ああ、まあその話は後でいい。」

どうやら近くに海軍が来てるらしい。


サッチさんのその言葉に、マルコさんは一瞬にしてピリッとした雰囲気を纏い、ベッドから飛び起きた。

「それを早く言えよい、馬鹿が。」
「うっせ!朝から衝撃映像見せられたおれの身にもなってみろ!!」
「ログはそろそろ貯まるんだろい。」
「丸無視か。ああまあ、詳しいことは航海士に聞いてみねェとだけど、もうそろそろ貯まる筈だな。」

海軍、て確かあちらの世界で言う警察みたいなものだったっけ?
えーと、この船は海賊船で、全然そんな感じはしないけど、つまりは犯罪集団なわけで、
その船の近くに海軍がいるということは、

(マズいんじゃないの?!)


白ひげ海賊団は強いって言ってたから大丈夫だとは思うけど、
もし誰か捕まっちゃったら、とか考えると変な汗が吹き出てくる。

部屋を出るマルコさん達を見送ろうとしたところで
マルコさんに「着替えてから甲板に来い」と言われて、
短く返事を返して急いで着替えて甲板に向かう。






甲板へと出れば、そこは全体的にピリピリとした空気に包まれていた。

その中心で方々に指示を飛ばすマルコさんに、
宴のときとは打って変わった雰囲気のクルー達が走り回っている。

(…あぁ、なんか、お荷物だって実感するなぁ。)

だってわたしにはこんなとき何をしていいのかすら解らない。

とりあえず邪魔にならなさそうな隅っこに移動したところで、
聞き慣れた声がわたしの名前を呼ぶのが聞こえた。

声の方を振り向けば、それはやっぱり特徴的な金髪の彼で。

おいでおいでと手招きしているのが見えたから
他の人の邪魔にならないようにタイミングを見計らって彼のところへ走った。


「…ヒロ、次の島に着くまでお前の部屋は作ってやれそうにねェよい。」
「え?!緊急事態なんですよね?そんなこと気にしないでください…っ。」

胸の前で手を左右に振れば、マルコさんは少し困ったように笑ってわたしの頭をくしゃりと撫でる。

そこへ航海士さんが走り寄ってきて、ログが貯まりました、と言いながら
方位磁石のような腕時計のようなものをマルコさんに見せた。

「…よし、全員戻ってるな!野郎共!出航するよい!!」















マルコさんのその言葉と同時に船が動き出しました。

(…わ、わ!)
(ああ、暫く揺れるから座ってろよい。)
(すみません…。)



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