マルコさんの態度に吃驚して目を瞬かせていれば、
はい、ヒロちゃんのはこれね!
と、綺麗に盛り付けられたプレートが差し出された。

お礼を言ってから受け取って、サッチさんが全然気にしてない風なことに驚く。



新常識。



(あれ、マルコさんていつもこんな感じ、なのかな?)

サッチさんとマルコさんを交互に見れば、二人から怪訝な顔を向けられた。

「…嫌いなもんでも入ってたかい?」
「え?…あ!違いますっ。」

マルコさんが口を開きかけたところで、食堂のドアが勢いよく開いて
テンガロンハットの彼がバタバタと近付いてくる。

「サッチ!飯!!」
「まったくマルコと言いテメェと言い…おれは飯じゃアリマセン!」
「朝飯をくださいサッチ様!」
「宜しい。」

エースくんがぺこりと90度にお辞儀するのを確認して、
サッと用意されたそれは、信じられない量で。

思わず目を見開いてまじまじと見れば、たったいま
わたしの存在に気付いたらしいエースくんが、
お、マルコとヒロじゃねェか、とこちらを向いた。

そしてわたしの視線の先に気付くなり、なんだ、食いてェのか?と首を傾げる。

「え、いや、凄い量ですね…。」
「そうか?」

お前こそよくそんなちっとで足りるなー。と言いながら、
近くの長テーブルに腰を降ろして早速その大量のご飯を口に運び始めた。

エースくんを見つめている間にサッチさんからご飯を受け取っていたらしい
マルコさんに、背中を押されてエースくんの向かいに座る。

わたしの隣に腰を降ろしながら、マルコさんが足りるかい?と聞いてくれた。
充分ですよー、と答えて、手を合わせていただきますを言って食事に手をつける。

「ん、おいし!」
「そりゃァよかった。」

マルコさんじゃないところから聞こえた声に顔を上げれば、マグカップを手にした
サッチさんが、物凄い勢いでご飯を口に運ぶエースくんの隣に座るところだった。

「サッチさんの作るご飯てなんでも美味しいですねー。」
「おお、嬉しいこと言ってくれるね!」
「時間のあるときにお料理教えてもらいたいくらいです。」
「こんな野郎に教わらなくても、ヒロは料理上手ェだろい。」
「え!いやいや、全然レベルが違いますよ!」

なにを言い出すのかこの人は!とマルコさんを見て顔の前で左手を振ったときに、
向かい側からゴシャッ!と言うあまり聞いたことのない音が響いた。

そちらに視線をやれば、手にフォークを握ったまま
大量のご飯の中に顔を突っ伏すエースくん。

「……え、え?!」

自分のフォークを置いて、どうしたものかと慌てていれば、
落ち着き払ったマルコさんとサッチさんがいつものことだからと一笑に付した。

「え、いつものこと、ですか?」
「あァ、寝てるだけだ。そのうち勝手に起きてまた食べはじめるよい。」

いやでもこれ、呼吸とか出来ないんじゃ…!

せめて顔をご飯から出してあげるとかした方が、とか考えている間に、
目の前のテンガロンハットの彼は、ぶほっ!と言いながら料理の中から顔をあげた。

「あー…、寝てた。」
「知ってる知ってる…っておれのエプロンで顔拭くんじゃねェェエエエ!!!」

これ一張羅なんだぞコノヤロウ!
と涙目でエースくんの頭に鉄拳を落とすサッチさんを見たら
呆気に取られるのを通り越して、なんだか笑ってしまった。

思い切りあははっ、と笑ってしまったわたしを、
マルコさんは軽く目を見開いて、サッチさんはやっぱり涙目で、
エースくんは頭に疑問符を浮かべて見ている。

(これが、ここの日常かぁ。)

朝から元気だなぁ。
なんだか悩みも全部吹っ飛びそうだ。

ふと目の前のエースくんを見遣れば、頬にまだ米粒がついていた。

「ふふっ、まだついてますよ。」

まだ納まりきらない笑いを零しながら、机越しに上半身を乗り出して
エースくんの頬についていた米粒をとってそのまま自身の口に運ぶ。

「…おォ、サンキュ。」
「いいえー。」

座り直して自分のご飯を再び口に運び始めれば、
マルコさんが不機嫌な顔でこちらを見ていた。

(…しかし不機嫌がわかりやすい人だなぁ。)

それにしてもその理由がわからない。
向こうにいたときは、大概わたしを心配してくれて怒ってた感じだとおもうのだけど
こちらに来てからのマルコさんの不機嫌スイッチはどこで入るのかさっぱりだ。

考えながらマルコさんを見つめ返せば、ふいと目を逸らされた。

「……?」
「…今日はこのあと、ナース達と出掛けるんだろい。」
「、え。あ、はい。」

マルコさんの態度に首を傾げていると、目は合わせないままマルコさんが口を開く。

「お前も解ってるとは思うが…この島は治安が悪ィ。」
「ぁ、…。」

こちらに来た一番最初の事態を思い出して、
徐に頬のガーゼに手を遣れば、大きな手が髪を梳いた。

「…ついて行ってやりてえが、今日は船番なんだ。」
「や、大丈夫ですよ!一人じゃないし。」
「いや、女だけで歩くんじゃ危ねェからエースを連れていけ。」
「あ?おれ?」














どうやらエースくんも初耳なようです。

(お前今日暇だろい。)
(あー、まあ暇だからいいけどな。今度奢れよ。)
(…チッ、仕方ねェな。)
(え、なんかすみません…!)




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