ふかりとした布と、太陽の光が当たる感覚。

どうやら寝ていたらしいわたしは重たい瞼を押し上げる。
と、目の前は藍色でいっぱいだった。

(…なに、これ…。)



初めて尽くしの朝。



ぼんやりした頭で藍色をそっと撫でてみる。
藍色がぴくりと動いて、頭の上から声が降ってきた。

「…擽ってェよい。」

………この声、は。

そのまま声のした方に顔を動かせば、そこには自身の頭を肘をついて支えながら
眠たげな目をこちらに向けるマルコさんがいた。

「…おはよう、ございます。」
「あァ、おはようさん。」

…ん?
あれ、わたし甲板で宴に参加してたはずじゃなかったかな?

なんでこんなふかふかのベッドで寝てるんだろう。

えーと、顔を上げてマルコさんの顔があると言うことは、
つまり、さっき撫でた目の前の藍色は、

(――――――ッッ!!)

いまの状況を理解したら一気に恥ずかしくなって、勢いよく起き上がった。

ああもう、なんだってマルコさんは、シャツを羽織ってるだけなのだろう。
そういえばうちに初めて現れたときもこんなんだったっけ?
あー違う違う別のこと考えよう!!

「…あ、あの、ここ、どこでしょう?」

肘をついて寝そべるマルコさんを振り返って聞いてみれば、
やっぱり覚えてねェのかいと溜息を吐かれた。

「…あれ、わたし、そんなに飲みましたっけ?」
「いや、眠かったんだろい。」

確かに昨日は途中から眠かった。
でも一応わたしの為の宴だって言ってくれたから、
抜けたら悪いかとおもって我慢してたはずだったんだけど。

「…すみません……。」
「気にすんな。慣れないことの連続で疲れたんだろい。」

むくりと上半身を起こしたマルコさんに、さらりさらりと頭を撫でられる。

なんていうか…、優しくされると申し訳無さが募るよね。

余程情けない顔をしていたらしいわたしの頬に手を添えたマルコさんが、
そんな顔すんなよいと目を細めてやんわりと笑った。

「朝飯、食いに行くかい?」
「…はい。」


マルコさんのあとについて部屋を出る。
向かい合うように部屋があって、ふと横を見れば緑の島。
ここは船の、割と端っこにある部屋らしい。

暫く歩くと、同じような景色が続いていて、
部屋間違えそうだなぁなんて考えながら歩く。

角を曲がれば、そこはもう甲板で、そこらここらに人が寝ていた。
それに気を取られていると、すぐそこの扉を開けたマルコさんに、こっちだと呼ばれた。

中に入ると、木製の長いテーブルと丸椅子がいくつも置かれている食堂だった。

「…わ、広い。」

おもわずそんな声が漏れる程度には広くて、
この船の全容はどれだけ大きいのかと考える。
中はぽつりぽつりと人が座っているものの、
いまはそんなに混んでいないようだ。

「普段はみっちり野郎共が座ってるよい。」
「え、こんなに広いのにみっちり…ですか。」

まァ、無駄にデカいのが多いからな、と言うマルコさんに、なるほどと頷く。
確かに、昨日甲板で見た人達はみんなびっくりするくらい大きかった。
見上げなきゃ目が合わないマルコさんが、小さく見えたくらいだ。

食堂の隅の椅子を引いて、ここに座ってろと言われて、
慌てて自分のご飯は自分で貰いに行きますよ!と言えば、
渋々といった感じでキッチンの方へ案内された。

…なんだかこちらの世界に来てから、
マルコさんがなんでもやってくれようとする感じが酷くなってる気がする。

マルコさんに続いてキッチンをカウンター越しに覗き込めば、
乱れの見えないリーゼントが誇らしげに揺れていた。

ヒロちゃんおはよ!とにっかり輝く笑顔に釣られて
笑顔でおはようございますと返せば、やっぱり女の子はいいなー!と頭を撫でられた。












…この船の人達は他人の頭を撫でる癖でもあるんだろうか。

(飯。)
(単語で会話するんじゃアリマセン。)
(飯寄越せよい。)
(朝ご飯をくださいサッチ様って言えたらくれてやる。)
(あ゙?)



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