「ヒロちゃん、ほら、食って食って!」

これ、サッチ様の自信作だぜ!

にっかりと笑うリーゼントの彼が差し出してくれた
マルコさんが持ってきてくれたお皿のうちの一枚には見たこともない料理。

違う世界なんだって、実感するなぁ。



宴はまだまだ続くようです。



「わあ、ありがとうございます…!」

慌てて受け取って自身の足の上に置けば、美味しそうないい匂い。
…スプーンだのフォークだのが無いんだけど、

(手掴みでいいのかな…?)

料理を見ながら少し考えていれば、隣からひょいと手が伸びてきて、
わたしの足の上の皿からマルコさんが手掴みで料理を食べた。

料理を掴んだ指先をぺろりと舐めて、「ん、旨ェ。」と言うマルコさんを見て、
何故かちょっとどきりとするのと同時に、
ああやっぱり手掴みでいいのかと安心して料理を口に運ぶ。

「もぐ、…ん!おいひいれす…!」

マルコさんと同じようにぺろりと自分の指先を舐めてから笑えば、
サッチさんが嬉しそうに、そりゃァよかった!と笑い返してくれた。

と、突然マルコさんに舐めた手をぐいと引かれて
どこから出したのか小さなタオルで指先を拭かれる。

「お前はこれ使えよい。」
「え、ソース美味しいし勿体な」
「使え。」
「…?」

マルコさんが使えばいいじゃないですか、と言えば
おれも使うからお前も使え、と。

若干焦ってる風なのはなんでだろう。
まぁ有り難いけど。

頭に疑問符を浮かべていれば、いつの間にか
ジョッキを持ったサッチさんとエースくんが乾杯しようぜ!とにっかり笑っていた。

それを見たマルコさんが持ってきたジョッキのうちのひとつをわたしに持たせてくれる。

んんっ、とひとつ咳払いをして、サッチさんが片手にジョッキを持ち、片手は腰に当てた。


「ではでは、ヒロちゃんの乗船に!!」

「「「「「「「「「「「かんぱ―――い!!!」」」」」」」」」」」



サッチさんが高々とジョッキを掲げると同時に、
そこらここらから一斉に怒号のような声が返ってきた。

慌てて乾杯、とジョッキを上げれば物凄い数のジョッキがぶつかってくる。

「わ、わ!」

口々に何か声を掛けてくれるのだけど、人数が多すぎて聞き取れないのと、
中身を零さないようにジョッキを持ってるだけで精一杯で、
申し訳なく思いつつも、全然返事を返す余裕はない。

一気にわあっと盛り上がったかとおもえば、
暫くするとまた甲板に散り散りになっていく人達。

(…なんていうか、凄い、な。)

それしか言葉が見当たらない。
唖然としてジョッキを両手で持ったまま固まっていれば、
不意にくすくすと笑い声が聞こえてきた。

声のする方を見遣れば、童話の王子様みたいな格好をした少年?青年?と、
シルクハットとくるんとしたお髭が特徴的な、燕尾服のようなものを着たおじ様と
日本髪を結った和服美人さんがこちらを見て笑っている。

「びっくりしたでしょー。ごめんね?荒っぽいのが多くて。」

相変わらずくすくすと肩を揺らしながら王子様のような人が近付いてきて、
わたしのジョッキに自らのジョッキを軽くこつん、と当てながら
「ぼくハルタ。よろしくね。」と挨拶してくれた。

それに続くように紳士的なおじ様と和服美人さんがそれぞれ挨拶してくれて、
慌てて挨拶を返す。

おじ様はビスタさん、和服美人さんはイゾウさんと言うらしい。

(…あれ?)

なんか聞いたことある名前だな。
…ああ、そうだ、前にマルコさんが話してくれた、

「隊長さん達、ですか?」

思い出せた事が嬉しくて笑顔で問えば、
自己紹介してくれた三人とエースくんとサッチさん、
何故かマルコさんまでが目を瞬かせた。

「ヒロちゃん、なんで隊長だって知ってんだ?」
「前に、マルコさんに聞いたんです。流石に全員の名前は覚えてないですけど、」

隊長さんが…えぇと、確か16人居るんですよね?

一生懸命記憶を辿りながら聞けば、マルコさんが更に目を丸くして
よく覚えてたねェと呟いた。

「ふふ、マルコさんのお話楽しかったんですもん。」
「…そうかい。」

ふ、と小さく笑って表情を和らげたあと、ついでに紹介しとくよい、と
残りの隊長さんを指差しながら教えてくれた。

「あの大男がジョズ、あっちのドレッドがラクヨウ、で、あれが…」
「うわ、頑張って覚えます…っ。」

次々と出てくる名前に脳みそが沸騰しそうになる。
元々人の顔と名前を一致させるのが苦手なわたしには結構大変な作業だ。

目を回しそうになりながら顔と名前を確認していけば、
マルコさんに軽くぽんぽんと頭を叩かれて、
ゆっくり覚えればいい、わからなくなったら聞け、
と言ってくれる笑顔に安心する。



「…へェ、どうやらマルコが骨抜きにされてるってのァ本当らしいな。」

くつくつと愉しげに肩を揺らすイゾウさんの言葉に、おもわず目をぱちくりさせた。

「なんだよイゾウ、サッチ様の言葉を信じてなかったのか?」
「あァまあ…自分の目で見るまでは信じ難ェだろ、これは。」
「だよねー。ぼくもちょっと信じてなかったもん。」

会話の流れについていけずに頭の上に疑問符を浮かべていれば、
相変わらず肉を両手に持ったエースくんがわたしの前にしゃがむ。

「あのなァ、マルコが他人にこんなに優しくする事なんてねェんだ。」

一度聞いたことをあとで聞き返したりした日にゃァ鉄拳制裁だし、
飯や飲み物なんて「ガキじゃねェんだ、自分で取って来い」っつって終わりだぞ!

エースくんの言葉に驚いてマルコさんを見れば、
苦虫を噛み潰したような顔で自身の膝に頬杖をついていた。

「そりゃァてめえが何度言っても覚えねェからだよい。」

ギロリと睨み飛ばされたエースくんが、マルコこえー!と笑って走って逃げて行く。

暫くすると、甲板の中央辺りが一層騒がしくなって
エースくんの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。















その声を聞いたら、つい釣られて笑ってしまった。

(ふふっ、エースくんてムードメーカーですね。)
(ありゃ馬鹿なだけだよい。)




- ナノ -