マルコさんに、ここに座ってろ、と
甲板に出てきた白ひげさんの足元を指されて
お邪魔します、と断ってから白ひげさんの足元に座る。

彼の後ろ姿を目で追えば、いつの間にか人で溢れかえった甲板の中心へ消えて行った。

ああ、エレノアが挨拶のあとにお風呂なんて無理だと言ったのはこういうことか。



そういえば、海賊は飲んで歌うんでしたね。



ふと目の前の光景に目を遣れば、踊ったり歌ったり、
飲み比べしてみたり、かと思えば隅の方で静かに盃を傾ける人も居て、
なんだか自由で面白い。

まだ昼日中だと言うのに皆陽気に酔っ払っている。

白ひげさんの足元に座るわたしに、近くを通るひとが、
これからよろしくな!だの、マルコが世話になったな!だの、大変だったな、だの、
代わる代わる挨拶していってくれる。


(…これが、"宴"かぁ。)


あちらの世界の、会社の飲み会は勿論、友達同士で飲むのとも
また少し違うそれをぼんやり眺めていたら、ふと目の前に不思議な形の影が落ちた。

影を辿って目線を上げるれば、
黒いブーツにお洒落なハーフパンツ、何故か上半身は裸なのに、
癖のある黒髪の上にはオレンジのテンガロンハットを乗せて
肉を両手にこれでもかと言うくらい頬を膨らませて食べ物を咀嚼する男の人。
ああ、不思議な形の影の正体はこの頬と両手の肉か。

「もがっ!もぐもぐ…んく、ぶはっ!」

何故かわたしの前に立ちはだかったままの彼は口をもぐもぐと動かして、
リスの頬袋のようだった頬っぺたはみるみるうちに小さくなっていった。
口の中の全ての食べ物を飲み下すと同時に彼は口を開いた。

「よォ、おれはエース!ポートガス・D・エースだ。」

以後よろしく!

ぺこり、と勢いよく丁寧にされた90度のお辞儀に、
慌てて立ち上がって同じようにお辞儀をした。

「ヒロです。よろしくお願いします。」
「マルコが世話になったってな!ありがとう!」

お辞儀から顔を上げれば、にかっと太陽みたいな笑顔でお礼を言われた。

「あの、白ひげさんにも言いましたけど、」

お世話とかそんなにたいしたことしてないんですよ。

胸の前で両手を左右に振りながら言えば、まじまじと顔を見られた。

「なあ、お前歳いくつだ?」
「…え、25、ですけど。」

答えた瞬間、目の前の彼は目を見開いたかとおもえば、がっくりと頭を垂れた。

「なんだよ、絶対ェ年下だとおもってたのに…!」

え、どういうこと、と聞く前に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「だっはっは、残念だったなァエース!末っ子脱却出来なくて!」

よォヒロちゃん、食ってる?

そう言ってにっかり笑うのは、立派なリーゼントの彼。

「サッチさん!あの、昨日は美味しいお粥ありがとうございました。」

ぺこりと頭を下げれば、
そんなに改めてお礼言われると照れちゃうなァなんてリーゼントを撫でた。

「あー、マルコから色々聞いたぜ?マルコが世話になったんだってな。
あいつあんまり話したがらなくてさー。」

ありがとう、と笑う彼の瞳は、とても優しい色を宿していて、おもわず言葉が零れる。


「…素敵、ですね。」


え、おれ?と嬉しそうに笑うサッチさんに、
そうですね、サッチさんも素敵です、と答えれば、
サッチさんとエースくんの目が真ん丸に開かれた。

「マルコさんが、愛おしそうにこの船の話をする理由がわかりました。」

だってこの船の人達はみんな温かい。
お互いがお互いを想いあってて素敵だなぁと、素直におもった。

「え、マルコが…?」
「?、はい。」
「見間違いじゃねェのか?」
「とても楽しそうに色々話してくれましたよ。」

マルコさんの楽しそうに話す姿を思い出して、
ふふっと肩を揺らせば、目の前にふ、と新しい影が差した。

「随分楽しそうだねェ。なんの話だい?」
「マルコさん。」

そこにはうっすらと口角を上げたマルコさんが立っていて、
見慣れた姿にほっとして頬が緩む。

マルコさんの話ですよー、と答えれば細い目が軽く見開かれた。

「…おれの?」
「はい、向こうに居たときの話です。」

マルコさんはそのまま床に腰掛けて、お皿を幾つかとジョッキをふたつ床に置いた。
ここに座れ、とぽんぽんとマルコさんの横の床を軽く叩かれて、
言われるままそこに腰を下ろす。

「なんだマルコ、飯取ってきてくれるなんて珍しいなァ!」
「煩ェ、お前の為に持って来たんじゃねェよい。」
「えー、一人でこんなに食うつもりかよ!」
「ヒロの為に持ってきたんだよい!」

エースくんとマルコさんのやり取りを笑いながら見ていたら、
意外な言葉が聞こえてきて、え、と目を見開く。

「え、って…じゃあお前は誰の為に持ってきたと思ってたんだい。」
「や、あの、すみません、ぼーっと座ってて…!」
「おれが座ってろっつったんだ。別にいいんだよい。」














言いながら、さらりと頭を撫でられた。

相変わらず、気遣い屋さんの紳士だなぁ。

(テメェマルコ!二人の世界作んな!!)
(…あ゙?何言ってんだ馬鹿リーゼント。)
(自慢してんのか!ピンクのオーラ振り撒くな!!!)
(なあサッチ、そんなことより肉が足りねェ。)
(お前はちょっと黙ってらっしゃい!!!)



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