流石、船員1600名は伊達じゃないな…!

現在、スーパー銭湯並の広さのお風呂を、一人貸し切り状態。

(広すぎて寛げないよ…!!)



ご挨拶の準備。



マルコさんに見張りをしてもらっていると言うことは、
マルコさんを待たせているわけだから、なるべく早く出なくちゃ…!

マルコさんは大丈夫だって言ってくれたけど、

(…本当は、やらなきゃいけないこととかあるんだろうなぁ。)

やたらと広い風呂場の隅で、出来るだけ早く頭やら身体やら洗ってお風呂を出る。

エレノアから受け取った紙袋を逆さにしたら、
新品のショーツとお尻くらいまでの丈の細身のロンTとキャミソール、
太股の半分目くらいの丈のパンツと1枚のメモが入っていた。
ブラが入ってないってことは、とりあえず自分のしとけってことかな。

(…うーん、やっぱり英語ちゃんと勉強しとくんだったな…。)

メモが全然読めない。
とりあえずメモを無くさないように口に銜えて服を着る。

髪はとりあえずあとで拭けばいいか、とたいして拭きもせずに
肩にバスタオルをかけて、やっぱりスーパー銭湯並の脱衣所を出た。

「マルコさん、すみません、お待たせしました。」
「いや、全然大丈、夫、」

ドアのすぐ隣の壁に凭れ掛かっていたマルコさんがこちらを見た瞬間に何故か固まった。
え、そんなおかしい格好してないとおもうんだけど。

おもわず視線を落として自分の格好を確認してみる。
…うん、普通。だよね?

もう一度マルコさんに視線を戻してマルコさん?と声を掛ければ、はっとしたように目を逸らしたあと、
肩に掛けてあったバスタオルをするりと抜き取ってわたしの髪を拭く。

「わ、ぷ!」
「…ちゃんと拭かなきゃ、風邪引くだろい。」
「は、い、すみ、ませ」

多分マルコさんからしたらそんなに力は入れてないのだろうけど、結構頭が揺れる。

暫くガシガシと頭を拭かれて、マルコさんの手が
バスタオルごと頭から離れる頃には大分髪が乾いていた。

「ふは、ありがとうございます…っ。」
「…お前、あんなびしょ濡れのままオヤジのところまで行くつもりだったのかよい。」
「え?あぁ、そうですよね、失礼ですよね…!」

ていうか、わたしこんなラフな格好でご挨拶に行って大丈夫なんでしょうか?

首を傾げれば、海賊船の船長に会いに行くのに
スーツ着る奴はいねェよい、と言われた。

…それもそうか。

それにしても、

「ラフな格好はOKで、髪が濡れてるのは駄目なんですか…?」
「それとこれとは別問題だよい!」
「はぁ…、そういうもんなんですか。」
「…お前、意味解ってねェだろい。」

解ってるつもりですけど、と返したら、
いや解ってねェ、と言われてしまった。

じゃあ解るように言ってくれればいいのに、とは思ったけど、
こんなところで見張りをさせておいて文句いうのも悪いしな、
と結局その言葉は飲み込んだ。

「…ヒロ、その紙袋には何が入ってんだい。」
「これは、先刻まで着てた…あ!マルコさん、シャツありがとうございました!」

思ったより気が動転してたみたいで先刻気付いたんです。
すみません、と頭を下げれば、洗濯に出しとくよい、と
その紙袋をわたしの腕からひょいと取る。

「あ、や、あの、自分で洗います、よ!」
「あ?別に一人分くらい増えたって、」
「や、その、…パンツ、とか、入ってるんで。」

いやわたしパンツって。せめて下着って言いなよ。
自分で自分にツッコんだあとに、物凄い勢いで顔が熱くなる。

(ほら、マルコさんも固まっちゃってるじゃん…!)

暫くお互い無言で視線を彷徨わせる。
マルコさんがひとつ咳払いをして、
…まぁ、これ持ったままオヤジのところへは行けねェから、とりあえず預かる。
と言うと、紙袋を持っていない方の手でわたしの手首を握って、ゆっくり歩き出した。

腕を引かれるままにマルコさんのあとについて歩き出す。

一度医務室に戻ったら、エレノアがやっぱりガーゼを貼りましょうって
ガーゼを貼ってくれて、マルコさんは紙袋を持ってどこかへ行ってしまった。

エレノアも仕事があるからとすぐに医務室を出て行った。

ここで待ってろと言われているので
自分が寝ていたベットの端に座って大人しく待つ。


(大きい船なんだなあ…。)

医務室の中をきょろりと見渡す。
ここだけでもわたしの住んでる部屋より広そうだ。
医務室からお風呂までも、大分歩いた気がする。

こんな大きな船の、1600人もの人達に慕われて、
その人達を率いるひとに、いまから会うんだ。


心臓がどくどくと音を立てていつもよりも早く動く感覚。

わくわくするけど、少し怖いし、でもやっぱり、会ってみたい。

色んな感情が綯い交ぜになって、
足元から何と呼んでいいのかわからない感情がそわりと上がってくる。


(…ああ、なんか、)


じっとしていられない。
座っていたベットからすくと立ち上がって、
マルコさんが出て行った扉に向かう。

と、目の前に迫った扉がカチャリと開いて金の髪が覗く。

「…なにしてんだい、こんなところで。」
「や、なんかちょっと、落ち着かなくて…」

はは、と笑えば、そんなわたしを見てマルコさんがゆるりと口角をあげる。

「そんなに緊張しなくても大丈夫だよい。」

ぽん、と軽く頭に乗せられた手から、じわりと温かさが伝わって安心する。














案内された、一際大きな扉の前で、一度深く深呼吸。
すー…!ふー…。

(…くくっ、開けるよい。)
(は、はい!)




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