本当に覚えてたから約束通り花見に付き合ってやる事にした。
低い気温に少し気は引けたが珍しく外に出たがるあいつを見てたら、まぁいいかと思えた




「花見日和だ、ユースタス屋」
「気温低ぃけどな」
「昨晩約束しただろ?キスも覚えてるぞ」
「約束はしたがキスはしてねぇ。お前いちいちキスに拘るよな…」



昨晩、薄い梅酒をコップ半分飲んだトラファルガーだったが流石にその程度で泥酔する訳もなく。
それでもいつも以上に頭の中は散らかっていたのか楽しそうにふわふわふにゃふにゃした言葉で話していた
そのうちにソファで寝だしたトラファルガーを放置しておれもいつも通りにベッドで寝たのだが
朝起きたらトラファルガーが傍らでじっとこちらを見ていたのでギョッとしたのは嫌な寝目覚めだった。

「花見」

起き抜けにそんな事を言われて一瞬なんの事だか分からず怪訝な表情をするおれにトラファルガーの眉が下がり「花見…」ともう1度呟いた

「…あぁ、覚えてたのか」
「もう10時前だユースタス屋。腹も減った」
「見てねぇで起したらいいだろ…寝顔見るとか趣味悪ィことしてんな」

しかし平気で一日中寝てる奴にもう10時などと言われると腹が立つ。そんなに花見がしたかったのかこいつは
既に1度部屋に帰ったのだろう着替えも済ませていた

「パン焼いとけ…それくらい出来るだろ」
「わかった」

素直に返事をするトラファルガーを良しとして洗顔や着替えを済ます
その間トースターをじっと見張るトラファルガーにはもう触れずにいた

「で?何処に花見に行くんだよ」
「ん?…何処だろうな…ユースタス屋いいとこ知らねぇの?」
「お前…」

遅い朝飯も食ってからようやく家を出る。そこで今日の目的地を聞けばなんとも計画性のない言葉が返ってきた
騒いでた割にこれかよ…

「咲いてるかわからねぇぞ」
「いいよ、行くだけ行こうぜ」




「…半端だな」
「気温上がりきらなかったからな…」

取り敢えず、公園沿いの桜並木を見に来たがまばらと言うにも足りない程しか桜の花は咲いてなかった。
先に咲いたのは散った後のようでなんとも間が悪い。

「ま、そんな期待してなかったけどな」

花見がしたいと言った割にこの見る花もない状況でトラファルガーは楽しげに笑う

「なのに花見がしてぇとか…お前わかんねぇなァ」
「フフ、おれはただユースタス屋とデート出来りゃそれで満足だ」
「デートな…この状況でんな冗談余計さみぃだけだぜ?」
「冗談じゃねーんだけどなぁ」
「おい、なんだよ」

とん、とトラファルガーが肩をぶつけて凭れ掛かってくるのをうざったく思いながら見下ろせば触ったらふかふかしそうな帽子が目の前にあった

「おれさ…ユースタス屋に飯食わせてもらうの好きだ」
「…は?」
「ユースタス屋が仕方なさそうにおれの面倒見てくれんのも好き」
「おれが仕方なさそうにしてんのは自覚してんだな、お前は」
「ふふ、そりゃユースタス屋に構ってほしいからさぁ…面倒かけたくなるんだよな。それにちゃんとユースタス屋は面倒みてくれるし」
「トラファルガー」
「おれもっとユースタス屋に甘えてぇんだよな。世話焼いてほしいし他にも…」
「おれは、お前の母親じゃねぇ」
「……わかってる」
「たまたま、テメェが不安な時期に隣りに居たのがおれだっただけだ」
「それも、言われそうだって予想してた。弟みてぇだとか、そんなん言われるんだろうなって」
「…馬鹿な弟はいらねぇよ」
「ひでぇな…。まぁ酒飲んで酔っ払って、キスしちまうくらいには好きなんだよ、ユースタス屋のこと」
「覚えてねぇくせにな」
「な。それは惜しいことしたって思ってる。つーか、ユースタス屋に殴られたから記憶飛んだんじゃねーのか、おれ」
「……そ、れは…ねぇだろ。ねーよ」
「なんで吃った?」

苦笑するトラファルガーが体を起して凭れていた重みが引き触れ合っていた肩の隙間を春の冷たい風が抜けていった

「次は酔ってねぇ時にキスできたらいいよな」
「…させると思うか?」
「フフ、でもまた殴られて記憶が飛んだら一緒だな…おれが可哀相過ぎる」
「だから殴ったせいじゃねぇだろ」
「あ、そうだ見ろこれ。殴られて歯ぁ当たったとこが口内炎になった。すげー血がでる」
「見せんなよ…」

名誉の勲章だ、と笑うトラファルガーは本当に馬鹿で……





(デートらしく水族館行こうぜユースタス屋)
(寒い冗談やめろっつってんだろ)
(だから、言っただろ?冗談じゃねぇんだって)


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