花見してぇな。
ユースタス屋と2人で、とか…



利き手の人差し指が使えないのは物凄く不便だ。
箸は持ち辛いし指先を覆う包帯がなんかむず痒い
昨日行った病院からは二日分の化膿と炎症止めの飲み薬を貰って、暫くは指を曲げるなと言われた。

「良かったじゃねーか腐って落ちずに済んで」
「その脅しがなかったら今頃おれの指は土の中だな」

おれの人差し指の墓、なんて墓標が立つ所だったと呟けばユースタス屋の顔に「気持ち悪い」と言う文字が浮かんで見えた






夕方、散々悩んだ結果今日の晩飯はコンビニで済ます事にした。
なんとなくユースタス屋のところに行きにくく思うのはおれの下心のせいだって自覚済みだ。
携帯と財布をジーンズのポケットに押し込んで靴に足を突っ込んだ時だった。少し前流行ったメロディーが鳴りおれは1人ドキリとする。
音の出所である携帯を開きディスプレイに表示された名前も念の為確認してから通話ボタンを押した

「ユースタス屋?」
「おう。今日晩飯食いに来いよ」
「え」
「あ?なに、食い物あんの?」
「あ、いや…ない。今買いに行くとこだったし」
「…なんか食いてぇのでもあったのか?別に無理に誘ってんじゃねぇから」
「や、ちがくて…行くよ。ユースタス屋の作るの方がいいし。飯、食わせて」
「…おう。」

怪訝そうなユースタス屋の声には気付かない振りをしてそ通話を終えると先ず溜め息が出た。

「び、びびった…」

そして吃った。嬉し過ぎて
ユースタス屋から掛けて来るのは初めてで、いま仕事が終わったらしいことを言っていた
入ったばかりの靴を脱いで財布もポケットから出してテーブルに投げ置く。

「飯なんだろうな…」

あんなに行きにくいと思ってたのに現金なもので
今は飯が待遠しくて仕方なかった




「その包帯どうした?」

ユースタス屋が帰って来て早々おれの指に巻かれた包帯について聞いてきた。
おれは昨日どれ程怖い思いをしたのか逐一話し、話し終えた後の第一声が「良かったじゃねーか。腐って落ちずに済んで」だった。

「病院に行く頭があって良かったな。感心したぜ」
「ユースタス屋…おれのことどれだけバカだと思ってる?」
「テメェの事だから化膿しようが爛れようが気にしねぇと思ってた」
「…、否定出来ねぇ」

確かにユースタス屋に腐って指が落ちても知らねぇ。なんて言われてなけりゃあのまま病院なんて行ってなかっただろうな…
今頃、この瞬間にもユースタス屋に化膿して熟れたトマト見たいな指見せて半泣きだったに違いない

「膿が溜ったんなら搾りだしゃいいだけだけどな」
「………」

ユースタス屋に力ずくで指先を握られて…あぁ、病院に行ったおれ偉かった。

「ところで、今日の飯は?」
「オムライスと野菜炒めの卵綴じと卵いれたスープ」
「タマゴだらけ…!?」
「日の持たねぇ卵貰っちまってよ…古ぃし卵自体あんま美味くねぇだろうから味付けて料理しねぇと」
「なるほどな…」
「オムライスの中どうする?」
「どうって、具か?」
「バターライスかチキンライスかその他か」
「え、普通オムライスってチキンライスじゃねぇの?」
「…よし、んじゃお前にとって普通じゃねーの作るか」

なんてユースタス屋はちゃっちゃと料理をし始める。
オムライスの中身について選択肢があったなんて、おれは初めて知った



「ったく、良い身分だな…起きろよ。飯出来たぜ」
「んー…、あ…れ。寝てた?」
「ソファ座って直ぐな。お前、そろそろ学校始まるんだろうが…しっかりしろよ」

ユースタス屋の小言を聞きながら起きるとなんも良い匂いがする

「うわ…なんだこのオムライス。ケチャップじゃねぇ」
「ま、言うと思ったけどな」

ユースタス屋の作ったオムライスは見た目からふわふわしてる卵とソースが掛かってておれが馴染みのあるオムライスとは全然違ってた
ケチャップで名前書いてくれとかそう言うベタなイベントすらさせてくれないのか、このおしゃれオムライスは。




「うまかった。でもチキンライスのがいいな…中が白いと落ち着かねぇ」
「なら、次はチキンライスにすればいいだろ」
「…フフ」
「あ?んだよ」
「なんも。……つーか、暫くはユースタス屋の機嫌悪ィかと思ってたんだけどな」
「あぁ…だから夕方変だったのか」

ユースタス屋は梅酒を、おれは麦茶を飲みながら食後の腹を落ち着かせていた

「別に…もう怒ってねぇよ。と言うより最初から怒ってもねぇ」
「…素面でしたら怒るよな?」
「素面でおれとキスして楽しいのかお前は?」
「楽しいかもしれないだろ」
「…料理酒入れ過ぎたか?」

ユースタス屋がまじまじとおれを見るからおかしくなった。
ユースタス屋は本当に面倒見がいいっつーかなんと言うか。
また、おれにオムライスを作ってくれる気でいるらしい。
それがおれは嬉しくて堪らなくて
なんだか1人で悶々としてるのが馬鹿らしくなってきた

「つーかユースタス屋、なんでおれ麦茶?」
「お前酒飲めねぇだろ」
「飲めるようになる」
「1年後に出直してこい未成年」
「フフ、大学の付き合いで飲んだ帰りに乗り込んでやるから覚悟しとけよユースタス屋。またキスしてやる」
「どんな脅しだ…お前やっぱり馬鹿だろ」
「今してやろうかユースタス屋」
「あ、テメェそれおれの梅酒だろうが!」

水と氷り割りの梅酒はキンキンに冷たくてでも飲み干して直ぐに顔が熱くなってきた。

「ユースタス屋ぁ」
「ああ?」
「花見、行こうぜ」
「…もう酔ってんのか?」
「いや、まだそんな…大丈夫。なぁ、花見」
「…花見なぁ…いいけどよ。明日休みだしテメェが覚えてたらな」
「覚えとく、今日のは忘れねぇよ」
「ほんとかよ」
「ほんと。キスしても明日はちゃんと覚えてるぜ試、」
「試さねぇよ」


「……ユースタス屋の意地悪」
「るせぇよ、酔っ払い」



明日は気温は下がるけど天気は良かった筈だと
お天気お姉さんの予報を思い出した


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