「朝帰りとは珍しい」

ペンギンが船に戻ると船長であるトラファルガーが声を掛けた

「魅力的な誘いを断り切れなくて」
「ほう。ま…不問ってことにしておいてやる。下船は許さねぇ」
「寛大な船長に感謝する」
「よせよ。照れて首撥ねちまうだろ」
「なぁ…知ってるか、船長」
「ん…?」
「人の恋路を邪魔する者がどうなるか」

ペンギンの問いにあぁ、知ってる。と、トラファルガーは笑い船の縁に立つと飛び降りた

「海賊王になるんだろ?」
「……あぁ」
「フフ…なら精々守ってくれよ、おれを…な」

出かけていく背を見ながらペンギンは呟く

「わかってるさ…そう誓ったのだから」










ユースタス"キャプテン"キッド率いるキッド海賊団が停泊中の島は広く賑わいのある島だった。
そんな島をユースタスは1人歩く。ログが溜るまでの中休みと言ったところで船番以外の船員も各々好き勝手に過ごしているはずだ。
どこか手頃な店にでも入るかと思っていると前方からこちらへと歩いてくる男に目が行き足を止め、その男もユースタスに気が付いたようでぴたりと立ち止まった。
白い繋ぎ服に目深に帽子を被った風貌。ユースタスは個人としては認識していなかったが、白い繋ぎには覚えがあった
死の外科医と謳われるトラファルガー・ロー率いる所の団員服。
その服を着た船員がここにいると言う事はハートの海賊団もこの島へ上陸していると言うことになる


ハートの海賊団の船員もユースタスと同じ様な事を考えているらしく数分にも満たない対峙が続く
両者とも直ぐさま攻撃に出るつもりはないようでユースタスに至っては相手の出方次第と言う体でいるらしく、それを察したハートの海賊の船員は静かな口調で問い掛けた

「ログは後どれ程で溜る?」

帽子の鍔と影で隠れた顔をそれでも口許だけは確認できパクパクと動く唇をユースタスは見ながら質問に答えた

「1日程度だ。島の南側の入江に停泊させてる」
「…西側に船をつけた。今日島に来たばかりだ」
「構わねぇよ。精々、テメェらが気ぃつけるこったな」
「覚えておく」

短い会話で互いの位置確認をする
互いの言ったそれが本当か嘘かは実際は分からないがキッド海賊団は西側には顔を出さないこと、ハートの海賊団が手を出さなければキッド海賊団も手出ししないことが建て前であれ約束されればそれにこしたことはない

互いに潰し合う事を避けることができこの島、住民にとっても最善となったが
自分の海賊団が最良に進む事を第1に考え、単身で敵船の船長と話を付けるハートの海賊団の船員に対してユースタスは興味を持っていた

「テメェとは話が合いそうだな、ハートの海賊団船員」
「…、冗談が好きなのか?キッド海賊団のキャプテンは」

パチッと火花を散らし、両者は対峙するが不意ににまりと揶揄する様にユースタスが笑う

「益々気に入ったぜ…テメェおれの船に乗れ。おれを海賊王にしてみせろ」

赤く彩りをつけた唇をつり上げ目を細めながら勧誘しだすユースタスに対しハートの海賊の船員は肩を竦める

「驚いた。ユースタス"キャプテン"キッドは冗談が好きらしいな…生憎、おれは冗談は苦手な方だ」
「堅ぇこと言うんじゃねェよ」

相変わらずの笑みを浮かべユースタスは他船の船員に向かい指先で呼んだ




ハートの海賊の船員は半ば強制的に他船の船長と肩を並べ勧められるままに酒を飲んでいた。不思議な気分だ、と零れそうになる溜め息を堪える

「トラファルガーよりおれは強い」
「どうだかな。うちの船長を見くびってもらったら困る」
「面白くねェな」
「それで結構。ユースタス"キャプテン"キッド」
「ユースタスかキッドでいい。一々長ったらしく呼ぶんじゃねェよ」

ジョッキに残る酒を一気に呷りユースタスは舌を打つとカウンターに肘を突きその手に頭を預けながら他船の船員を見た

「楽しんでるだろテメェ」
「さぁ…ユースタス程楽しんでるつもりはないけどな」

ユースタスの言葉を聞き流しハートの海賊団の船員はグラスを口許へと運ぶ。
他船の船員の態度に不満げにカツ、カツ、と指先でカウンターを叩いていたユースタスはその口許に目を止めると向けていた視線を1度外しニィ、と唇を横に引いた

「連れねぇなァ…男なら誘いに乗れよ」

ユースタスはグラスに触れた男の唇の端が楽しげに歪んでいるのを見逃さず、楽しげに目を細めながら声に色をつけ誘ってみせる。

「…本気で誘ってくれてるなら、考えなくもない…」

その声に男は空になったグラスをカウンター置きユースタスを一瞥するように顔を向け、口許だけで笑う

「本気だって言ってんだろ」

ガタンと椅子を引き多めに酒代をカウンターに置くとユースタスは日の暮れはじめた街へ紛れていく。
後ろには白い繋ぎ服を纏った男を連れて





古びて歪む窓から燦々と日が差し込む
笑ってしまえる程に爽やかな朝だと右のこめかみから額や瞼、頬骨へと走る無数の傷を携えた男は目を細め軋みの酷いベッドから体を起した。

「最後まで連れねェな、テメェは」

同じベッドに赤い髪を広げ相手に背を向けて横たわる男からの声に男は呼吸のついでのように微かに笑い、肩を竦めた

「起き上がっただけだろ?そこまで薄情なつもりはない」

寝乱れた髪を掻きながら言葉を返すと広がる赤に目を映した
傷を持つ男はハートの海賊団の船員であり、ペンギンと名乗った
その隣りでペンギンに背を向け横たわっているのはキッド海賊団の船長であるユースタス

「良くなかったとは言わせねェ…」
「良くなかったなんて元より言わないけどな」
「はぐらかすな」
「本音だよ。抱かなきゃよかったって後悔してる」

ペンギンが肩を竦める間もなく起き上がったユースタスに押し倒され
いつの間に手にしたのかダガーを喉元に添えられた

「…うちの船長なら、もう撥ね飛ばしてるとこだな」
「あいつは能力があんだろうが。死人に口無しじゃあ楽しくねぇだろ…弁解があるなら訊いてやる」
「ふ…悪いが前言を撤回するような言葉は出ないぞ?」

表情も変えないペンギンにユースタスは舌を打ち苦い顔をした

「どうしてもか」
「…もっと早くに出合ってれば、あんたを海賊王にしてやれたんだけどな」

残念そうに笑いペンギンは首に添うダガーも気にせず身体を起こす

「世辞かよ…」
「ユースタスに嫌われたくないんだ。…だからおれはあんたにはついて行かない」

白い繋ぎ服を纏い目深に帽子を被るペンギンがほんのり口角を上げユースタスの唇を塞いだ

「背徳感でいっぱいだな」
「よく言うぜ」
「愛してるとでも言おうか?」
「そりゃあいい冗談だ…つくづくトラファルガーには勿体ねぇ」
「船長に伝えておくよ」

ぱたりと閉まったドアをユースタスは暫く眺め挨拶もなしに出て行った薄情な男の冗談に今更笑いが込み上げ1人静かに笑っていた






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愛も恋も始まらなかった

ペンギン大捏造

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