「ユースタス屋!」
「…なんだうっせーな!」

『大切な奴』

「ユースタス屋!大変だっ」
「だからなんだよ…つーか夜中なんだから静かにしやがれ」
「それどころじゃねぇ!捜してくれっ」
「ハァ?何を」
「俺の、俺の大切な奴が居なくなった…!!」





「…明日、つーかもう今日だけどよ…仕事あるから早く寝てェんだけど」

日付けも変わり、そろそろ寝ようとした時だっだ。
ベランダを乗り越えてやってきやがったトラファルガーは遠慮もクソもなく窓を叩いて俺を呼んだのだ
言って置くが日付けの変わる前の昨日だぞ、俺達が知り合ったのは。
いくらなんでも馴々し過ぎだし一昨日は「迷惑はかけない」とか言ってなかったか、コイツ
とにかく部屋に来てくれと言う奴に渋々頷いて、ちゃんと自分の家の玄関を経由し隣りの部屋を訪ねた
そしたらいきなりそんなことを言うのだ

「…大切な奴ぅ…?」
「ああそうだ。大切な奴だ。俺はアイツが居ないとダメなんだ!」

なんだよ…痴話喧嘩でもして相手がどっか行っちまったって事か?
つーか面倒くせぇ…俺を巻き込むなよ

「お前知らねぇか?」
「俺が知るわけねェだろ」
「だってお前が荷物整理してくれただろ?」
「……お前、一体誰を捜してんだ?」
「ベポだ」
「…」
「もふもふのシロクマだ」



人じゃなかったのか。


つーかシロクマって…
いや、それよりも

「テメェ!部屋散らかし過ぎだろ!」

よほど必至だったのか…収納棚の中はひっくり返され散乱、夏物衣類の入った段ボールも開け広げられ
昼間に俺が整理してやった面影は皆無だった…



午前1時を過ぎた
取り敢えず散らかしてあるものを片付けながら「ベポ」と言う名のシロクマのぬいぐるみを捜す
聞けばかなりの大きさのヌイグルミらしいのだが、全く見つからない。

「ん?なんだ…」

半分衣類が散らかり出た冬物の箱の底からビニールのような光沢が見え残った服を取り出すとそれが出てきた

「おいトラファルガー」
「なんだユースタス…なんだそのでっかいパック」

ビチッと効果音のつきそうな程に真空された1m四方の大きさのそれをトラファルガーへ見せる

「多分、お前の探し物だ」
「……!!」

トラファルガーが急いでバリッと勢い良く圧縮袋の口を開くと中身が空気を取り込みむくむくと肥大して元の形を成した

「ベ、ベポォ!」
「…圧縮は盲点だよな…」

感動の再会よろしくひっしと抱き締め合う(?)トラファルガーとシロクマに俺は怒りを通り越して多分荷造りしたであろう人物、トラファルガーの母を思う
布団などを圧縮してしまう袋にぬいぐるみを詰めて服と纏めて送るとか…













しかし、いい歳した男がぬいぐるみとはどうなのか。
歳の割りにしっかりとした顎鬚の生えてる男が、だ。


「ユースタス屋」
「は?おわっ…」

モフッと胸元にぬいぐるみを押し当てられて思わず抱き留めてしまった

「………」

抱き留めた腕にもふもふと反発する感触にふわふわと柔らかい毛並み
これは…なんと言うか

心地、良い…



「フフ、ユースタス屋…俺のベポは最高だろ」






ベポが見つかってから暫くユースタス屋と談笑しながら俺は夜食用のお湯を沸しているとユースタス屋からの声が途切れた
どうしたと様子を見れば、カクッカクッとベッドにもたれてベポを抱きながら舟を漕いでいる

「あ、ちょっユースタス屋!」
「…」
「こらこら待て待て!」
「…んだよ…」
「寝るな!」
「…も、マジで眠…」
「部屋戻れよ」
「…んー…」
「んー、て…」
「……」
「…おい?」


「…寝ちまった…しかもベポ抱いたままで」

少しムッとなるが、今日も仕事がある中ベポ捜しに付き合ってくれたユースタス屋を叩き起こすことも出来ず
取り敢えずあまり刺激しないようにベッドの上にどうにかこうにか横たわらせた。
眠りが深いのか全然起きない。

カップ麺を食べながら、静かに寝息を立てるユースタス屋を見る
壁側を向いて居るので顔は見えないが呼吸により上下する背中とか…





「ベポ、取られっちまったなぁー…」

俺は今日どこで寝よう






ベポ登場

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