どうせ捨てられっちまうんだ

そう高を括って文字にした
それで、この想いも捨てればいい
適当な紙になぐり書き。それを奴の机に突っ込んだ
自嘲の笑みと不覚の涙が出そうになって慌てて屋上への階段を駆け上がった






先日、くだらない話をした。

「だなぁ…靴箱にラブレター、呼び出して告白とか?」
「ベタだなァ、ユースタス屋」
「るせー」


学校の帰り道。
空しくも男2人肩を並べて歩いていると、ちらほらと幸せそうに寄り添って歩くカップル達が目に入る。
それを見て、どちらからともなくそう言う話題に流れた

「テメェはどうなんだよ?告白のシチュエーション」
「とにかく、靴箱や机ん中にやたらと紙や物を突っ込んで行くのは止めてほしいところだな。ゴミを捨てる俺の身にも」
「待ておい、テメェ今なんつった!?」
「?…ゴミを捨てる俺の身にもなれって」
「捨てんのか?」
「捨てるだろ。一方的に綴られた手紙やら誰が作ったのかわからん食い物なんて」
「……」

実際、なにがいいのか俺には微塵もわからないのだが
このトラファルガー・ローはモテるらしい。
…嘘は言ってねぇ。
こいつの何処がいいのか全くもって分からない。けど、俺は…

「ユースタス屋?」
「な、…んでもねぇ」


トラファルガーのことが、好きらしい。


「…お、コンビニ。」
「俺あんまん」
「俺はピザまん…ジャーンケーン」

肘で小突かれながら目の前の店に視線を移し、入口の頭上に掲げられた広告を見ながらポケットに突っ込んでいた手を出す。
期間限定の20円引きか…


「肉まんも捨てがたいなぁ、トラファルガー?」
「チッ…肉まんは半分こな。」
「ケチくせぇな」
「…奢らねぇぞ、ユースタス屋」

なんて、こんな軽いノリで話すのも、楽しいやら苦しいやらもどかしいやらで頭ん中はごちゃごちゃしてる

「ん、あんまん」
「サンキュ」
「見ろよユースタス屋、これ」
「お、くまのやつじゃねぇかっ」
「フフ、買いに行く度売り切れてたが、今日は一個残ってた。ラッキーだったな」

あんまんとピザまんをそれぞれ頬張りながらホワホワと湯気の立つくまの肉まんを眺め、なんか食うの勿体ねぇよな、なんて笑う
何時までこうやってられんだろうかとか
考えれば、思えば、それほどに苦しくなるっつーのに。

「ひとくち」
「…ん」
「やっぱうめぇとは思わねぇな…あんまん」
「ピザまんのが俺はわからねぇけどな…」

食いかけを交換するのにも、こんなに胸が高鳴る始末で

「先に食っていいぞユースタス屋」
「…つっても、これ食いにきぃな…」
「好きなとこから食えよ」
「……」
「そっから行くのか?」
「っ…んじゃどこから食やいーんだよ!」
「可愛いクマさんをためらいもなくそこから食うとは…ユースタス屋のエッチ」
「テメェッ」
「ま、俺はここから食うけどな」

なんて、俺が食った所からわざわざ食うこいつに不覚にも動揺しちまいそうになって

「…なんで…」
「やっぱこう言うのは鼻からいくのが道理だろ?」
「……お前の、道理はわからねぇっつの…」

俺の胸に浮ぶ求めたい言葉とは違う言葉に一々落胆しちまう。

「肉まんって味濃いから結構喉渇くなぁ…ユースタス屋」
「……ココア飲みてぇ」
「余計喉渇くだろ…」

温かくて甘いだけのそれで潤うようなら
こんなに苦しくはない筈だ。








「朝から見ねぇと思ったらずっとここでサボりか?」
「…ダリィんだよ…」

珍しく早く登校し、こいつの机に紙切れを突っ込んで、捨てたつもりの想いを抱えながら授業なんて受ける気にもなれずに1限からずっと屋上に逃げ込んでいた
今日に限って気温はいつも以上に低く、やるせなさでいっぱいだ。
今日はもう帰ろうかと思いはじめていた頃に姿を現したトラファルガーになんとなくホッとしちまう自分
なのに素っ気無い言葉しか返せずに、苛立ちを紛らわすため寒さから垂れる鼻を啜った

「お前さ…」
「、…んだよ」
「…や、こんな寒ぃ日にわざわざ屋上でサボることはねぇんじゃねーか?しかも寒いの嫌いなくせに」
「るせーな…いんだよ、別に」
「ま、馬鹿は風邪引かねぇんだろうけど…おら。まだサボるつもりなら羽織ってろ」

バサリと投げて寄越されたのはトラファルガーのカーディガンで本人はそれを投げるなりもう背を向けている

「…余計な世話だ…」

その背に小さく呟きながら温もりの残るそれに鼻先を寄せると柔軟剤の匂いがした




昼休みになりカーディガンを返すためにトラファルガーの教室を訪れるが奴の姿はなく、仕方なく椅子の背凭れにそれをかけて置く。
なんとなく顔を合わせるのが嫌だったから好都合だと思う反面、少し残念に思った。

自分の教室から勉強道具が一つも入っていない鞄を引っ掴み声を掛けてくるダチに帰ると投げやりに答えて後にする。
何故か不貞腐れたような気分になりつつ帰路を歩けば冷たい風がボタンを開放つ胸元や耳を触り芯から冷える思いをした
ああ、もう…
寒くて惨めでどうにかなりそうだ。
帰り着いても着替えもせずベッドへ突っ伏して、ぐずっと鼻を啜った。
今頃、ノートの1ページを破って四つに折り畳んだだけの所謂ラブレターはゴミ箱の中で燃やされるのを待ってるんだろう。






嫌でも朝は来て、眠れずずっと起きてたのに時間は遅刻ギリギリで何時ものように髪を逆立てる気にもなれず、またそんな時間もなく…トボトボと登校する

「…あ?」

寝不足と気の重さにボケッとしながら靴箱を開けると上履きの上に薄い色で花の描かれた封筒が入っていた。
暫くそのままでいたがようやくのろのろと靴箱に手を突っ込み左手で封筒を取り眺めた。

「え…」

これって、あれなのだろうか。

「ユースタス」
「!!?な…お、おう…ペンギン…」

不意に背後から声を掛けられて慌ててポケットに封筒を突っ込んだ。

「どうした…さっきからボケッとして。ラブレターでも入ってた?」
「な!?」
「…冗談のつもりで言ったのに…面白いなお前。」
「くっ…テメェ…」
「そーいや、今日はローと一緒じゃないんだな。昨日もローの奴寂しそうだったぜ?」
「…別に…いつも一緒ってわけじゃねー…」
「ふーん…」

先をスタスタと歩いて行くペンギンの背を見ながら、ポケットの中でくしゃくしゃになっている封筒に触れる





寝不足を引き摺りながらでは授業に身が入るわけもなく、また封筒の中身も気になって教室に行くこともなく屋上へと直行した。
人気のない階段を上りながら軽く握り潰して皺の寄ったそれを読む
差出人は不明。中には屋上で待っていると言う旨のことが書かれいた。
丁寧にもユースタス・キッドへと書いてあり間違いなく俺へ宛てられたものだと確信する
しかし、屋上で待ってる、だなんて…

「いったいいつだよ」

日時の指定のないそれに首を傾げながら屋上の扉を開けた

「…お前…」
「おはようユースタス屋」

慌てて手に持ったままの手紙を背の後ろへと隠した
朝っぱらからトラファルガーが屋上にいるなんて珍しい
しかもこんなときに限って…

「どうしたユースタス屋…今日もサボりかよ」
「うるせーな…テメェだって同じだろ」

溜め息を吐きながら再び手紙をポケットに突っ込んでトラファルガーに歩み寄る

「…ユースタス屋…少しくらい、疑えよ」
「は?なにを?」
「お前さー…」

あからさまな溜め息に怪訝そうにトラファルガーを見れば困ったように笑っている

「ユースタス屋…俺、なんでここにいると思う?」
「はぁ?サボりだろ?」

違うのかと首を傾げれば「違うさ」と肩を竦める
じゃあなんだ…

「鈍ぃなァ…待ってるって書いてあっただろ?」
「何に?」
「お前のポケットに入ってる手紙に」
「あぁ…手が、み…ぁあ"?!」

俺のポケットに入ってる手紙って、…これ

「俺が出したんだ」
「っ…お前の字じゃ」
「キャスの字だ」
「っ!?…なん…」
「昨日、机の中にさ…すっげーお粗末な手紙入っててよぉ」

これ、とトラファルガーがカーディガンのポケットから見覚えのある紙切れを出す。
かぁあ、と顔に熱が集まった気がして思わず俯くも構わずにトラファルガーの声は続く

「悪戯にしてはお粗末じゃねーか…タダの紙切れなんてさ…」

悪戯、お粗末、タダの紙切れ
そう言った言葉を並べられ酷く胸が痛んだ。
そう思うなら、捨てればいいじゃ…

「けど…どう見ても、知ってる奴の字だし、内容が内容だし…これが悪戯でもタダの紙切れでもなくてラブレターだって言うならさ」

視界全体が黒く染まり鼻先に柔軟性の匂いが広がった

「俺は泣きそうなくらい嬉しい訳だ、ユースタス屋」
「なっ…バッ!離れろっ」

腕ごと抱き締められて押し返す事も出来ずに身動ぐと更に強く腕が絞まり身体が密着して耳に独特の笑い声が届く

「フフ、…ちょっと早まっちまった」
「ぅ…は?なにが…」
「"靴箱にラブレター、呼び出して告白"の予定だったんだが…告白をぶっ飛ばしたな」

失敗した。とトラファルガーが苦笑して俺を抱き締めていた腕の力を緩めた

「好きだ。ユースタス屋…今更だけどな。お前の気持ちは受け取ってるわけだし」
「え…」
「これは一生の宝物にするよ」


そう言って俺のノートの1ページを千切って四つ折りにしただけの手紙にトラファルガーは普段見せねぇような笑みを浮かべてキスをした
俺はまた顔どころか首と耳まで熱を感じながら硬直する

「ちょっと待て…!大体これはお前からの手紙じゃねー、だ…」
「そう言うと思ったから、ちゃんと書いてきたさ」

ピッと恰好をつけて差し出された手紙を受け取ると、恥かしさと言うものを持ち合わせてねぇのかトラファルガーの顔には今すぐ此所で読めと書いてあった






「トラファルガー…」
「なんだ、キッド?」
「ッ…ロー!」
「フフ、…」
「…っ…」

トラファルガーの冷えた唇が俺の唇にくっついて、でもそれは直ぐに離れて行く。
トラファルガーの頬がいつもより血色が良くて寒いと呟き袖口で顔を隠しながら鼻をすする姿が珍しかったが
俺はそれを冷やかすのをやめた
この、所謂ラブレターに免じて。










読み終わったら名前を呼べ
キスさせろ
今お前以上に恥ずかしいのは俺だ



レーゼドラマは羞恥で輝く





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ラブレターを書いたユースタスより、それをもらったトラファルガーの方が本当はいっぱいいっぱいだった、と言う話。
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