『お友達になりました』




昨夜は新しい部屋と一人暮らしと言う新たな生活になんだか落ち着かない夜を過ごした。
そして一睡も出来ずに朝7時を迎えた

「…俺、目茶苦茶淋しがり屋じゃねーか…」

やっと、周りが動きだし生活音で煩いくらいになる。
はぁ、と溜め息をつきテレビをつけた。

今日は10時頃に実家からの荷物が届く筈だ
テーブルに転がる赤く熟れたリンゴに手を伸ばし、これよりも赤い隣のお兄さんを思い出すと何となく壁を凝視してみた
…壁の向こうが透けて見えるわけでもないけどな







「……」
「すみませんすぐ片付けますすみません…」

昼、気がつくと12時過ぎだった。どうやら気を失っていたらしい
つーか、爆睡してた。
そして10時に運ばれて来たであろう荷物はドアを囲うように廊下に積み重ねられていた。
業者ぁあ!いや、俺が悪いんだけれども!いいのかよこんなぞんざいな感じで…受け取りのサインとか普通いるんじゃねーのかよ

心の中で悪態を吐きながら少なくないそれなりの大きさの段ボールを1人で中に運び込まなければならないのか…
と、途方に暮れていると出かけていたのか帰宅したお隣のユースタスさんがすっごく迷惑そうな表情をして俺と荷物を見ていた。そりゃそうだ…広くない廊下をこんだけ占領してちゃな
取り敢えず2回謝って、なんとか荷物を運び入れる
なんだかとっても泣きたい気持ちになった







「お前な、来て早々に迷惑かけてんじゃねーよ」
「いや…まったくすいません」

あれからユースタスさんは意外にも荷物を運ぶのを手伝ってくれて、更に意外なことに几帳面な性格なのか面倒見がいいのか荷物を開ける作業も手伝ってくれた。

「バカがお前…んなとこにそんなもん重ねてんじゃねえ」

俺は荷物を開けるだけ開けて放置したり倒したりと越してきたそばから部屋を散らかしてしまった。
俺ってこんなに片付け出来なかったのか
やっと終わって気付けば14時前。
ユースタスさんがいなければ1日でこの部屋はゴミ屋敷だったかもしれない。

「重ね重ね…」
「もういい。それよりテメェ、虫でも涌してみやがれ…殺すからな」

低く凄みのある声で釘を刺さろ何度も頷いて肝に命じる。
自分の命の為にも部屋の清潔さは保とうと誓った



「…あの、腹減りません?」
「食ってねぇのか?」
「寝てて」
「…お前、そんなんで大丈夫なのか?」
「…俺も自信なくなってきました」

自分でも笑えないくらいなんも出来ないな俺…

「ベランダの窓開けて待ってろ」
「?」

小さく舌打ちをしてユースタスさんは俺の部屋を出て行った。
なんだろ…つーか飯どうしようかな。またコンビニにでも行くか…
空腹だと認識してから有り得ないくらい腹が減って来て今すぐコンビニに走りたいのに…ベランダの窓を開け今回は長く10分以上待たされた


「おい」

昨日知ったばかりの声が聞こえて慌てて狭いベランダへ出る

「ん」
「…え」
「嫌いか?」
「や…嫌いじゃない、です」

湯気立つ皿にはナポリタンが盛ってあって思わず腹が鳴った。

「どうも…」

両手で受け取ると丁寧にもフォークも添えてあった。
いただきます、となんか照れくさいけど小さく呟いたら苦笑と共に「おう」と返って来て更に照れくさくなったのは内緒ってことで。




あ、美味い…普通に美味い

「……お前、18?」
「です。大学行くんで出て来たんですけど…なんか、挫けそう…」
「早ぇな…ま、向いてないのは確かだけどな」
「…酷い」

見た目に反してなんか話しやすいユースタスさん。
それに実は優しいしみたいだし…

「俺も訊いていいですか?歳とか…」
「23」
「社会人?」
「まぁな」

なんだこれ…一問一答?

「…一人暮らしですか」
「そうだ」
「自炊します?」
「一応」
「あのリンゴは」
「貰い物」
「趣味は」
「…特に」
「彼女は?」
「…おい、なんかおかしくねぇか」
「いやぁ、テンポいいなって」

なんだこの人ちょっと面白いし。冗談が通じる…
でも彼女いるかいないかは答えてくれなかった。

「お前、それが素か?」
「あ…」

そういえばいつの間にか敬語使うのも忘れて普通に喋ってた。
やばいかなとチラッと隣りを見たら向こうもこっちを見ていた
…目の色も赤いんだこの人。

「皿」
「あ、洗って返、…返します」
「割らねぇか?」
「バカにす…」
「そもそも洗えるのか?」
「…ごちそうさまでした」
「最初からそうしとけ」

今日のことで俺は無能馬鹿の位置付けにされたらしい。
反論も出来ず食い終わった皿を返すと楽しそうに赤毛は笑っている

「タメ口でいいぜ」
「…」
「そのダルそうにしてるのも素なんだろ?俺は堅っ苦しいのは好きじゃねぇからそのままでいい」

折角のキャラ作りは2日で終了した。
もう少し頑張れると思ったんだがなー…

「…飯、美味かったよ」
「そうか」
「ありがとうユースタス屋」


4階、階段上がってすぐの1部屋目。
エレベーターなんてもんは無いけど、まぁ…住めば都になればいい。








(ところでトラファルガー、なんだそのユースタス、屋って)
(…気にするな、癖だ)
(変な癖だな。…つーか、いきなり態度でかくねぇかお前)
(ユースタスさん、また手伝って下さいね!)
(気色の悪ぃ笑顔やめろ…)
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