すぃ〜つ、な ひと時を
テーブルを挟み対峙して今日ももう残すところ数時間
ローとキッドはお互いの"成果"をどん!とテーブルへ置いた
2月14日の今日、そう世間はバレンタインである
毎年の事ではあるが2月過ぎから世間はハートだったり赤色だったりで浮かれて浮き足立ち
様々な思いに心が踊っている、であろうそんな世事
一組のカップルはお互い闘争心を燃やしていた
『どちらが多くチョコ(プレゼント)を貰えるか!』
戦いは1月も終る頃、そう店頭に"その類い"の品が並び始めた時から始まっていた
まぁ、そんなこんなで最終決戦、バレンタイン当日を迎えその晩
お互いの成果を見せ合った
その結果は
「…、勝ったのに悔しいのはなぜだ…」
「質、の差じゃねェか?」
じと目でテーブルに積んだ自分の成果を見ながらローは複雑そうに呟き
キッドはフフン、と満足気に笑っている。
今回、数で勝負だったのでローに軍配が上がったようだが
質、いわゆる価格な意味ではキッドの方が上だったらしい
それに少しローは拗ねているようだ
「ま、勝ちは勝ちだ」
「負けても悔しくねェな、全然」
機嫌よく笑いながらキッドは某ブランドチョコの箱を開けると一粒摘み頬張った
「ど?」
「Me-jiのが好きだな」
「無駄に高ぇチョコレートの味なんてユースタス屋にはわかんねーよなァ」
「ハッ、テメェの安い挑発にゃ乗ってやる気はねーよ」
指についたチョコを舐めながらキッドは笑いローは肩を竦めた後、四つん這いでキッドの方へと移動しその際床に置いていた幾つかの菓子箱をベコ、グシャ、と躊躇いなく踏み越える
「おれもそのチョコ食いてぇ、ユースタス屋」
「少ししか残ってねェけど?」
「残念、だが…それで十分だ」
キッドは自らの手を差し出してローの口許へ翳しローは褐色の名残を舐めとった
「どうだ?」
「ユースタス屋の味がした」
「んなのわからねェよ」
真面目な顔で感想を述べるローにキッドは心底笑いながら覆い被さってくるローのその重みに流されるように身体を倒し仰向けに寝そべり
ローは笑うキッドの口にさっきのチョコを放り込みその口を自分の口で塞いだ
「ん、っん…ふ」
口腔で褐色の固形を遊ばせながら深く長い口付けに酔いキッドはローの背に腕を回し軽く抱き付く
ローはそんなキッドの頭を撫で髪を梳きながらチョコが溶けてなくなってしまうと漸く唇を離した
「は…」
「Me-jiのが確かに美味いな」
「、…だろ?」
「あぁ…だから、もう一回チョコなしで…」
「とかって、服脱がせんじゃねーよ」
積み重ねた色とりどりにラッピングされたそれらがばらばらと滑りテーブルや床に散乱していく。その内キッドの肘で潰されローの膝に乗られ
脱ぎ散らかされた服に埋もれていった
彼等にはその程度の価値である贈り物の品は
彼等を囲み眺めている
「箱に乗った時だな」
「ミミズ腫れになってる」
倦怠感の残る中、辺りは歪にひしゃげた箱や破けた包装紙が散乱していて
自分達の身体には細かな擦り傷が付いていた。
「背中がすっげーヒリヒリするんだが」
「それはおれが引っ掻いたやつだ」
箱に乗った際、角や包装紙で擦ってしまったのであろう傷を確認しながら、キッドは悪びれもせず言い
ローもまた、それならそれでと痛みは気にしないことにした
「ゴミ出すの大変だな…」
「分別しなきゃならねぇしな」
足元にあるそれを軽く蹴やりながらキッドは身体を起こす
「もう風呂行くのか?」
「ん、いや…」
立ち上がるキッドにローはまだ甘い雰囲気を楽しみたいと手を掴み引き止めるが苦笑を浮べながら直ぐ戻るからとその手を離させてキッドは何処かへ行ってしまう
少しばかりの淋しさと暇を持て余しながらローは広げた包装紙の上に様々の形のチョコレートの粒を重ねて積んでいった
「何してんだよ」
「あ、ちょ、ちょっと待ってもう少し」
キッドが戻って来ると茶色い歪なタワーやらがテーブルの上に造られてい微妙なバランスで立つそれは良く見ると揺れているように見えた
「……ふー」
「あ、あ、あぁあーー、あーあー…」
焦れたキッドが横から息を吹き掛けるとそれらは簡単にバラバラと崩れ落ちローは最後に積むつもりだった赤色のハートを模したチョコを摘んだまま、惜しむ声を上げた
「ユースタス屋ァ…」
「ん」
「ん?…うまそうだな…」
残念そうにするローにキッド湯気立つマグカップを差し出す
ホットチョコレートがなみなみと入ったそれをローは受け取り口を付けた
「…うまい」
「Me-jiのチョコだからな」
「ユースタス屋の愛が入ってるからだ」
「入れた覚えはねーよ」
またまた、と笑いキッドに抱き付きながらローはありがとうと呟いた
甘い匂いの立ち込める中
とろけるような甘いひと時を
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何処までも甘い雰囲気のロキド
2010-02/14