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文中で触れてませんが
社会人ローと中学生キッド
糖度高いです
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寝起きに思わず笑ったんだ
「ん…?……フフ、」
意識が浮上すると手と足の先に違和感を覚えた。
爪がひやりとするようなそう、まるで何かに覆われているような。
利き手の甲で目を擦りつつそれでもぼやける視界でその指先を捕らえるとどの爪も黒いエナメルが塗布されていてそれは完全に乾き定着しているようだ
ならば足も、と手先と同じように感じる足先を掛け布団のから出し見やる
「…こりゃあ、また随分賑やかにしたもんだ」
パステルブルー、ショッキングピンク、ライトイエロー、ミントグリーン、ミディアムパープル
両足の各指にそれぞれの色が乗っていて余程退屈だったんだろうなと少しだけ悪かったと思いながら視線を彷徨わせた。
直ぐに目に止まる鮮やかな赤に頬が緩む
持て余した暇でおれの手足の爪に色を付けた犯人である恋人を見ればすっぽりと耳を覆う馬鹿にデカいヘッドフォンを付け雑誌を見ていた
あのヘッドフォンはうん万円の代物で音漏れもせず外部の音も殆ど遮断してしまうだとかなんだとか言っていた。あの時の嬉しそうに話てくる姿も可愛かったと1人頷く。
が、しかし…またとんでもない音量でギャンギャンと俺に言わせて貰えば喧しいとしか言い様のない歌だか絶叫だかわからんもんを聴いているんだろうと思うとしかめっ面になってしまうのは仕方ないだろう。
「…―――、――?」
未だ俺が起きていることにも気付いてない相手に一応、律義に声を掛けるも全く反応はない。
ならば、仕方ないお前が悪い
「…?う、あ!?なっ」
俺が身体を起し動けばスプリングの利いたベッドは簡単に揺れ、ベッドに寄切るように座っていた恋人はその振動を感じて振り返る。完全に振り返る前に相手の腕ごと背後から抱き締めて胸を探り小粒なそれを割りと強く、落花生の殻を潰す位には摘んで引っ張ってやった
「いっ!バカッ、痛ぇっ」
顔だけをなんとか振り向かせヘッドフォンに流れる音量のせいかいつもよりもデカい声で咎めてくる恋人に「お前が悪いんだろう」と笑ってやる
「はぁ!?」
なんて言ったのかわからねェ、と眉間に皺を寄せて声を上げる恋人。
声が届かず、視覚の伝達だけでは言葉を汲取るのは結構難しい
それを解りながら続ける。
胸元の粒を弄りながら、その他へと手を滑らせた
「フフ、そんなに睨むなよ」
「い、たっ…わっ!どこ触っ!?」
「そんな可愛い顔して誘ってんのか?」
「ふぁ!?アッ…や、だっ」
「なぁ、俺の声全然聞こえてねぇんだろ?」
「とらふぁ、ひゃあっ!」
「いつもよか声聴けるのはいいけどな…俺の言葉を理解しねぇのは腹が立つ」
「くっ…ぁ、ア…!」
ゆったりしたスボンと下着の中に手を突っ込み性急な手つきで触ると本人は殺しているつもりだろうがそうとは思えない声が出ている
顔や耳、首までも赤くしながらぎゅっと目を閉じて、
「る、か…っ!…わる、い…ごめっ、なさ…っ」
「…うん?」
急に謝り始める恋人を見れば身体を強張らせて今にも涙を零しそうな顔をしている
「ツメ、わるかっ…てめ、が、おきねー、からっ…」
「…キッド」
「イヤ、なの…しらな、」
「キッド…、キッド」
「…、?…あ…?」
見当違いなことで謝るな、と苦笑しながら何度か名前を呼ぶ。どうやら数度呼んだ甲斐があったのか口パクで"キッド"と名前を呼んだことは伝わったようだ
くす、と表情を緩めて膝の上に抱き上げると目を丸くしながらも大人しくされるままになっている。
はぁ、とため息をつくと雰囲気で感じとったのか恋人の身体が強張るのでもっと苛めてやりたいとも思うが…さっき毒気を抜かれてしまったからな。今日はこのへんで止めてやろうと耳を覆っていたヘッドフォンを外してやる
「あ…」
「別に、爪のことには怒ってねェよ」
「…けど、…怒ってたじゃねーか…」
「あぁ、怒ってた」
頷いてやればやっぱりと言ったように口を尖らせるが、理由が違うんだと再度伝えた
「難聴になるって、前に注意したよな?」
「…」
「買う時にも言っただろ」
外した時に耳に自分の近付けてみたがそれこそ今直ぐにでも鼓膜を突破りそうな音が流れていた
それを咎めると珍しく素直に謝る様子を見てくしゃりと頭を撫でてやる
「次、あんな音量で聴いてやがったらヘッドフォンとは言わずコンポからi-Podから全部壊してやるからな」
「なっ」
「返事は」
「ッ…わかった」
渋々と頷くのを見届け、次は機嫌をとってやらねばと見れば恋人の手先にも黒、足先も俺のものと同じ配色て色が付いていた。
不服そうな顔にも書いてある、"最初は俺の方が怒ってた"と
「悪かったな…暇だったんだろ?」
どれもはみ出ることも斑になることもなく均一に丁寧に色を塗られた爪を見ながら穏やかな調子で問う
「…全然起きねぇし、お前」
「ん。悪かった」
「……リムーバー、いるか?」
俺の手を取り自分の施した出来を確かめながら恋人は問い掛ける気があるのかと突っ込みたくなるくらい小さな声で訊いてきた。
まったく、思ってることが顔に出やすい恋人だ
「いらねぇよ。せっかく塗ってもらったんだしな」
足を絡めてながら自分と恋人のものを見比べカラフルな足先に思わず笑いが零れる
「なかなか洒落てるお揃いだなァ」
「…!」
「コンビニでも行くか。プリンでもなんでも買ってやるよ」
サンダル履いてな、と頬にキスしてやるときゅっと口を一文字に引き結んだ恋人が正面から頭突きを食らわせてきた
「ぐっ」
「ッ!」
額も鼻も正面からぶつかったがやんわり触れた唇の感触に痛みよりも何よりも愛しさが先に込み上げた
「ラメ入りは?」
「あんま好きじゃねぇ…ラメが取れねぇし」
コンビニのコスメコーナーを覗くとそれなりにマニキュアが置いてあるのを発見した。
興味なかったから知らなかったがこんなのも置いているのかと密かに感心しつつ
「お前何色が一番好きなんだ?」
「…こんくらいの、青?」
指で示されたのは何か別のパッケージに色付けされた濃く深い青だった
「赤じゃねーのか」
「赤も好きだけどな」
そう言い好みの色がなかったのか恋人は興味が失せたとばかりに買い物カゴを引摺り甘い菓子が並ぶコーナーへと行ってしまった
恋人は甘いものが好きらしいそしてつくづく甘い俺は…
「気に入らなかったら悪ぃな」
「これ、いくら…」
「さぁ?覚えてねェ…でも一番色がよかった」
探せばあるもんだ。
ブランドなんてものは知らねぇが一目惚れした赤と青のマニキュアを土産に持って行ったら目を見開いていつもよりも子供らしい表情になった恋人。
「…」
「…嫌な色だったか?」
二つの小瓶を手に固まる顔を覗き込むと何故か頬を染めて礼を述べてきた。
そしてさっきまで黒く塗っていた爪をいきなりまっさらに戻し、真剣な表情で与えたばかりの青に塗り替えている
正直俺は暇だったが黙って見守った
「あぁ、やっぱり良い色だな」
「…欲しかった、ヤツだ…」
「ん?」
「雑誌見て欲しかったヤツ」
満足気に手を眺める恋人が仲の良い同級の女子に借りていたファッション誌のあるページを示して来た
なるほど。確かにあのマニキュアが紹介されていた
何度も繰り返し開いたのだろうページには癖がついてしまっている
「トラファルガー」
「なんだ?」
「明日休みか?」
「あぁそうだ」
意図を察して両手を差し出すと恋人は嬉しそうにまず爪鑢を持ち出した
俺の爪が赤く染まるのはそのあとらしい
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「キッドくん?お兄さんそろそろ悪戯がしてぇんだけどな」
「したら帰るからな」
恋人は俺の膝に陣取り飽きずに赤い爪と青い爪を見比べている
薄いシャツ越しに伝わる体温とか眼下で揺れる赤い髪のだとか香る匂いだとか扇情的なのに
「……」
ふわりと緩むその横顔が可愛すぎて手が出せないとか
絡む指が微かに握られてしまえば…
これもまた、官能的ではないかと引き寄せて青い爪にキスをした
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誰だこいつら
わりかし素直なキッドと
マニキュア話とヘッドフォン話を一つにまとめたらぐだぐだに…。
分けて書けばよかったと後悔