おれの部屋のベッドでベポと一緒にゴロゴロしてるユースタス屋に食後にコーヒーを入れる。

「流石に今日は至れり尽くせりだな」
「当たり前だ。食後のデザートだってある」

ベポを抱きながら起き上がりコーヒーを受け取ったユースタス屋はデザートの言葉に反応した。

「デザート?まさかそれも手作りか?」
「ああ。これはおれだけじゃなく、シャチとペンギンからも一緒に」

部屋の隅に置いた箱を慎重にテーブルへ移す。一抱え程ある箱は見た目からプレゼントだと分からないようにただの白い箱だ。

「開けていいのか?」
「箱をゆっくり上に持ち上げてくれ。中身はデリケートだからな」
「何作ったんだよ…お、わっ!なんだこれっ」

箱を持ち上げた途端に目を丸くし至極面白そうに笑い出すユースタス屋におれもへらりと笑う。20×30cm程の箱庭…ただし、全部菓子で作り上げたものだ。
菓子の家や基本的なパーツは、昨日キラー屋の家でオーブンを借り焼き上げたクッキー。極普通なバタークッキーならおれたちにも難しくなかったのでシャチとペンギンで前の日から生地を作って寝かせたものをキラー屋の家で型をとりひたすら焼きの繰り返しだった。

「馬っ鹿だなぁテメェら。なぁこれ模様とか何で書いてんの?チョコレートか?」
「それはアイシングで…」
「アイシング?」
「あー、卵白と砂糖と混ぜたやつ。それに着色材混ぜたり」
「へー…すげぇ…食うの勿体ねぇな」

真上からみたり横から見たりをするユースタス屋は予想以上に喜んだ。
クリスマス頃からスーパーでチョコで作る菓子の家を駄菓子コーナーで見掛けおれもユースタス屋も気になってたのだ。結局買う機会を逃してしまったので今回作ってみた。
ユースタス屋へのプレゼントとは半分建て前で、おれたちが作るのが楽しみで仕方なかったなんてのは秘密だ。
勿論クッキーだけではなく、マーブルチョコやデコレーション用のそれも使い随分派手な家が出来上がったが。

「テーマとかあんのか?」
「おれとユースタス屋の家」
「言うと思った…随分広そうだな。庭もでけぇし犬でも飼うのか?」
「猫も鶏も鯉と金魚とベポも飼おう」
「ベポって…シロクマ飼う気かよ」
「ああ。…そうなると、もっとでかいプールが必要だな。しまった」

そんな夢を語りながら笑いが絶えない。
そして、何やらハッとしたユースタス屋がおれを見る。

「お前デジカメは?写真撮ったか?」
「いや…、シャチが写メってたくらいだな」
「撮れよ、撮ろうぜ」

真剣に急かすもんだから慌ててデジカメを探して渡す。
携帯のカメラでも撮り、デジカメでも撮るユースタス屋をこっそりおれも携帯のカメラで撮影した。
ユースタス屋は気付いてたかもしれないが何も言わなかったのでおれの宝物にしよう。

「やっぱ食うの勿体ねェな…」
「食わなきゃ湿気るし、カビるかもしんねぇぞ?」
「…じゃあどっから食うんだ?つーかこれちょっとやそっとじゃ食い切らねェぞ」

コーヒーも十分冷めた頃に困った顔で笑うユースタス屋がどうしよう、どうしようとそわそわしてる。それが楽しそうで、珍しく子供じみてるのが新鮮に映った。
毎日一緒に過ごして色んな顔や態度を見て来たつもりだったけどまた新しいユースタス屋を見れたのだから細やかながら頑張ってよかったと思う。

「なぁ、せっかくだから明日あいつらも呼んで一緒に食おうぜ。1日くらいならまだ食わなくて平気だろ」
「ああ。ペンギンとシャチには伝えとく」

写メを添付してキラー屋にメールを打ち始めるユースタス屋にもう一度。


「誕生日おめでとう。ユースタス屋」
「…おう。ありがとな」

頬に貰ったキスは慣れない料理で疲れた気持ちを吹っ飛ばした。





- After -

手料理を振る舞ってプレゼントを上げた夜。
よっぽど機嫌がよかったユースタス屋はそのままおれの部屋で寝た。翌日も仕事だが響かない程度ならと恋人の営みも込みでだ。
翌朝起きると温めたシチューが香って、パンも焼かれてた。
おはよう、とユースタス屋が笑ったのでおれも笑い返した。



「誕生日おめでとう」
「誕生日おめでとうございます!」

夕飯時になりキラー屋とシャチてペンギンがやってきた。1日遅れてユースタス屋へ祝の言葉が贈られる。
ユースタス屋は照れくさそうに笑って礼を言っていた。

「随分張り切って作ったんだな…思ったよりデカくて驚いた」
「焼くの大変だったんすよー。割れたりして!アイシングでくっつけたんでこの辺あんま見ないでくださいね」
「こう見るとひびとか目立たないようにした隠蔽が逆に目立つな」
「じゃ、取り敢えずこれから食おうぜ」「先ずユースタス屋から食えよ」

菓子の家を囲みながらキラー屋は実物も今初めてみたので驚きしげしげと眺める。
おれたちは改めて見たそれに反省点ばかりが目に付いた。
何処から食べるのかとまた一悶着したが各々目に付いたところを取る。

「お、美味い美味い。バター強めだけどな」
「うん、悪くない」
「案外しけってないな」
「ユースタス屋これも食って」
「もうなんか解体作業みたいっすね」

飯も食わずに菓子をつまみにビールを飲む。
これがある程度減らなければ今日の飯にはありつけないのだ。

「これ、作るのはいいけど…」
「食うとなったら厄介だよな」
「ペンギン、手ェ止まってんぞ」
「ちょ、もうビールやめましょ!?余計腹膨らむっ」
「コーヒー飲むやつー」

上がる全員の手に、少しずつ欠けて行く菓子の家。
ユースタス屋はそんなおれたちと食い掛けの菓子の家をデジカメに納めていつものように意地悪そうな笑みを見せると人数分のコーヒーを淹れ始めた。






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2012年1月。キッド誕生日リクエスト
リクエストしていただきましたしょーこさんありがとうございました!
いつも隣りにの2人でほっこりと誕生日を祝う、奮闘するロー。
2人でほっこり、にしては前後で賑やかになりましたがローにはこんな感じで奮闘してもらいました。拙い出来、そして思いのほか長くなってしまいましたが少しでも楽しんで頂けていたら嬉しいです!

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