これでもすげぇ悩んだ。
おれの誕生日が過ぎた頃からずっとどうしようか考えたんだ。
おれの誕生日。特別何も欲しくなかったからそう伝えたらユースタス屋はちょっと困った顔をしてたけど、丸一日以上の時間を俺にくれた。
誕生日の3時間前から特別な時間は始まってて、抱き合ったベッドの上で一番最初に祝ってくれた。その日は外で食う飯よりユースタス屋が作る飯の方が好きな俺の為に普段以上に腕を振るって、キラー屋もペンギンとシャチも呼んで祝ってくれて、そしてまた2人の時間は濃厚に過ごした。
それがおれにとって最高の誕生日だった。
ユースタス屋はこんないつもと変らない日でいいのかと首を傾げたが一番の贅沢だったと思う。なのに「鍵もやっちまったし、お前にやるもんなんてもう全然思い付かない」なんて言いながらスケッチブックと100色を超えるその界隈では有名な色鉛筆をくれた。
それまで俺の持ってた色鉛筆は72色の、しかもない色や短くなった物、買い足された真新しい物が入り交じりケースも古ぼけた物。
昔に親が買い与えてくれたそれに、ユースタス屋は物持ちがいいと感心してくれたけど、その時に俺が言った「新しいのを買うタイミングが掴めないだけ」という言葉を覚えていたんだろう。

それが凄く嬉しかったから、その日から次に来るユースタス屋の誕生日にはどう返したらいいか悩みに悩んだ。
それとなく聞いても、正直欲しいものも買い換えたい物もあるが別に今は要らないし本当に欲しいもんでもない。とか言うなんとも悲しい答えばかり返って来る。
買い換えたいと言う電化製品なんかはおれの一人暮らし用に真新しい物を買ってるので掃除もろくにしないおれの掃除機はユースタス屋の方が使っている。
それで満足そうにしているユースタス屋をみると俺は何とも言えない、この…感じ。

足りない物を買い足すにも、それはユースタス屋の誕生日を待つ迄もなく次の日にスーパーに行けばいいのだ、醤油とか油とか。
そうこうしてる内に、早くも年を越してしまった。
クリスマスも特別なんてことはなかった。ユースタス屋は仕事だったし、おれもバイトだったから夜一緒に飯食ってケーキ食って、一緒に寝て。
次の朝、夜中にちらついたろくに積りもせずシャーベット状になった雪の所為で凄く寒いと言ってベッドから出ないユースタス屋に代わって、パンを焼き黄身の破けた目玉焼きとハム、お湯を注いだコーンスープを用意したのだ。
ベッドから漸く出たユースタス屋は喜んでた、と思う。


* * *

とうとうユースタス屋の誕生日、数日前になってしまった。

「固形の奴じゃダメなのか?」
「アレなら適当に入れて煮るだけだぜ?」
「ユースタス屋は牛乳とかで作ってんだよ…カレーは固形の使ってっけど、シチューのは見た事ねェ」

おれの誕生日にはねだらずとも仕事を休んでくれたユースタス屋は、自分の誕生日には頓着ないらしく当日はどうやら仕事のようだ。
多分、自分の誕生日だってこと覚えてねぇんだろう。ユースタス屋らしいと言えばらしいが、今回はそれが好都合だった。

今までの生活を振り返ってみると、ほぼユースタス屋が飯を作ってくれている。たまに弁当とか作り置きとかも用意してくれておれは幸せだ。
でもお互い休みの日はユースタス屋の手伝いして一緒に料理したり、たまに…そう、クリスマス日の次の朝のように不格好ながら軽食を作ったりしてみたりもする。
一緒に料理するのは、ユースタス屋も楽しいと言ってくれたし、俺が見た目が悪い物を作っても味は良いと言って食べてくれる。嬉しそうに…そう見えるのはおれの思い違いじゃないと思いたい。

そう考えてユースタス屋の誕生日には飯を作ってみることにした。
ユースタス屋が冬には何度か作るシチューをメインに。

「なんか、あれだよな…母の日が近くなるとCMで良く見るアレ」
「ああ…それっぽい!」
「うるせぇ黙れ」

それは自分でも思った事だから、他人に言われると余計に腹が立った。
それがこいつら…ペンギンとシャチとなると更に腹が立つ。

「レシピはわかってんのか?」
「ユースタス屋に聞いた。シチューってなんで出来てんのか聞いたら牛乳とかって」
「牛乳とかって、アバウトだな」
「ちゃんと詳しく聞いてる。小麦粉とか…一応メモった」
「へー…おれの母ちゃん固形の奴使うから始めて知った。って、ローさんこれ分量書いてないじゃないスか」
「ああ。そこが問題だ」
「おいおい…」
「ユースタス屋って、料理する時全部勘でやってるらしくてな…一緒に作ってても、こんくらい、とか具が水に浸かってりゃいいとかすげぇ適当に調味料投げ込んでくんだよ」
「それであんな美味い飯作れんの!?すげーなユースタスさん…本当に母ちゃんみてぇだな」
「キラーはあんだけきっちり分量測っても…だし、…やっぱり料理もセンスの善し悪しがあるんだな」
「な…キラー屋は料理以外は頼れるんだが」
「もう作り方は携帯ででも調べて、後は味見してくしかないんじゃないか?」
「だよな。けど数が多くてどれ参考にしていいのかいまいちわかんねぇ」

そっから1時間近くレシピを探して3人が3人とも携帯を開き、ユースタス屋が作るものに近いレシピを見つけた。
分量を書き出して、取り敢えずそのページはブックマークして。

「材料の買い出しは付き合うけど作るのは1人でするんだろ?」
「ああ。コッチはな。」
「問題はコレの方だな…本気で作んの?楽しそうだけど」
「作る。完成図とパーツは見ての通りだ」
「無事に焼けるかどうかだよな…つーかお前が作りたいだけだろ」
「ユースタス屋だってこのロマンはわかってくれるはずだ」
「これ、出来上がったらおれたちからってことでいいんだよな?」
「型って100均で揃うか?」「ローの電子レンジで出来ん?」
「キラー屋に相談したらキラー屋ん家のオーブン使っていいっつった」「じゃあキラーさん家で作んだ」
「あんまり汚さないでくれって苦笑いしてたぞ」

プレゼントにはちょっと冒険し過ぎたものを計画して。

「早速材料買いにいくか」
「明日焼かないと間に合わないもんなー」
「さっさと行くぞ」

かくして上手く、美味く出来るのかと一抹不安と沸き立つロマンを胸に来たるユースタス屋の誕生日への準備を進めるのだった。


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