「ボニー…」
「こう言うのはなぁちゃんとしたの着けなきゃダメなんだぜ?ほら、こっち!」




おれは、一体なんの悪さをしたのだろうか?
一体何の罪でこればどんな罰なのか…神様に聞けばいいんだろうか。
そんな問答も空しく、本当になんの罰なのか身体が女の「ソレ」になっちまって1週間程が経つ。
已むを得ず、学校を休みしばし様子見と言ったところだ。身近な気の置ける友人と、恋人…だけがおれに起きた変化を知っている。

まず。身体が女に…と言うのは、性転換手術で豊胸やホルモン剤を打って等と言う物ではなく、ある日の朝目が覚めると骨格から何からが女になっていたのだ。
"弄った"形跡のない、まるで元からそうであったように女の身体をしていた。
勿論、これが後天的なのは確かだ。おれが頭がおかしくて、はたまた性同一性障害で元から女の身体の癖に「男だ!」と言い張っているわけではない。先天的にはれっきとした男なのだ。それも同年代…いや、男の中でも男らしい体格であったと自負している。
それなのに…

と、キッドは未だに覚めぬ悪夢の中で否定し続けるように1人うんうんと唸っていた。
1週間あまりになる戸惑い尽くしの生活には新たな難題は山程出て来る。
それは初日のトイレから今日の買い物に至るまでも。

「こんだけ日にちも過ぎたのに変わらないんだ。気持ちは分かるけど順応も大切だぜ?」
「わかってっけどよ…」

学校も休日の今日。一応毎日様子見に来ては間に合わせの下着やら服を持って来てくれていたボニーは、今日は午前中からやって来ておれに服を押しつけるや否や「これに着替えろ!いいか、紙袋の中のは全部着るんだぞ!?」そう言い放った。
幼馴染みで、同い年の癖に昔から男勝りで時には姉貴のような絶対的権利を突き付けてくるボニーにはどうも気圧されがちだ。渋々紙袋をひっくり返して…ため息。
そうしてちらりと伺えば"女同士"となり余計隔たりが薄くなった所為か、ボニーは俺が着替えるまで見張っている気だ。逃げられそうにもなかった。
「ホック留めてやるから。後ろ向け」
「なんか居心地悪ィんだよなぁこれ…」
「文句言わずに慣れろ!そのタメにも今日買い物いくんだからなっ」
「はあ?」
ギュッと締め付けられる胸の圧迫感。布がこうしてぴたりと胸囲を覆う事など経験が無いに等しいおれには慣れないむず痒さと妙な緊張が取れない。
この、女用の下着であるブラがどうにも嫌いだ。慣れないからか肩が張って肩は凝るし胸の膨みの下?辺りの圧迫がむずむずする。

キッドはこの身体になり二日目の日にボニーが持って着てくれた下着類に戸惑った。
ショーツは、ボニーが気を働かせてくれたのか所謂ボクサータイプの物が見繕ってあった。勿論女性用なのでサイズはぴったりで、履き心地も安心出来る。
しかし戸惑いはここだ。流石に見るも触るも初めてとは言わないが、キッドはブラジャーを見て思わず気が引けた。
まさかこれを自分が?とまだ自覚をもてず持て余した胸を見下ろしてみたりもした。
この時はキッドもボニーも深刻には思ってなかったので、ボニーはキッドにそれを着けろと強要はしなかった。
…が、である。ここまで日が経ってもこのままで、しかも女性として文字通り胸を張って良い程度には確かな膨みがそこにはあった。それを無防備に薄いシャツの下で遊ばせているキッドにボニーは不安を覚えたのだ。
それに、不本意ではあるがキッドの恋人からもよろしくと言われている。
だからこそ、キッド本人を連れて今日は買い物へ行く決意をした。キッドの元の性別を考えれば可哀相にはなるが…貞操の危機も女のそれとして自覚を持って貰わなければ、もし万が一と言う事がある。
こうなってしまえば否定しきれないのだ。

「よし!似合うなっ。そのジーンズぴったりみたいだからもうキッドにやるよ」
「お前…裾のなげぇの持ってたんだな」
「どう言う意味だ!?」

ボニーはちゃんとおれの事を考えてくれているようで、貸してくれた服は女用でも中性的に見えるようなものばかりだった。
今履いてるこの貰ったばかりのスキニージーンズもボニーが持っていたと思えば何故か感心してしまう。
ボニー自身が普段からショートパンツや丈の短いスカートを着ているので身構えてはいたが、おれに持ってきてくれたのは普通のジーンズやスウェットで女らしいの代名詞がつくようなものはなかった。
「…ありがとな」
「は!?なっ…別に…気にすんなっ早く行こうぜ!」

不意に聞こえたキッドの礼の言葉に照れたのか、ボニーはつんと顔を背けてしまう。
見上げる程だった背丈が、今は同じくらいになってしまったキッドをボニーは少なからず可愛いと言う感覚で扱っていた。
まるで妹が出来たような、男女間の友達ではなく同性として近くなったのもあるのだろう。
「お前を着せ替えして遊ぶのも面白いしなっ」
「テメェ…勘弁しろよ」
前は微塵もなかったキッドと連立って歩く楽しさを味わいながらボニーは意地悪に笑うのだった。



「要らねぇよ!お前の持ってきたやつでいいだろ!?」
「よくねーから買いにきたんだ!大体アタシのだってサイズ合ってないんだろ?」

ボニーが意地悪く笑ってから暫くのこと。
目的の店に着いたのかキッドが何か言い始める前に、その手を掴んで引きずり込んだ。
ここは、ランジェリーショップである。

「…合ってる!」
「合ってねぇよ!嘘つくなっ」

咄嗟に言い張るキッドに流石にボニーは驚きと飽きれがまぜこぜになった突っ込みを入れるがキッドの目は泳ぎっ放しだ。

「今日しっかり測って貰えば後で服買うのも楽になる!直ぐに終わるから我慢しろっ」
「クソッ…!」

気恥ずかしさと早く立ち去りたい苛立ちでほんのり頬と耳を赤く染めながらキッドは観念したようにため息混じりの悪態を吐く。
ボニーが店員に呼び掛け、背中を押されながら前に出る。
にこやかに対応するこの店ならではの女性店員がメジャーを手に迫るのをキッドはグッと息を詰めて迎え入れた。


「…なんか…疲れた」

あれから、トップとアンダーバストを計られ軽く胸を触られた。上から押さえるように下から包むように。そして店員の口から出る説明をボニーが聞いていた。
ついでにウエストとヒップまで測って貰い終了。
時間にして5分弱だがとても疲れた。

「キッド、まだ疲れるなよー。これからだぞ?」
「はぁ?まだなんか測るのか?」
「ちげぇよ。下着選ぶに決まってるだろ」
「あー…もう、サイズが合えば適当で…」
「そうもいかないって。ほら…ブラもパンツも色んな形あるんだぜ?」
「………」

どうやらさっきの店員が説明していたのはこれらしい。胸の形や大きさによって選んだり、ブラの形によってはワンサイズ上を買った方がいいなどとそう言えば聞いた気がする。

「自分の胸と合わなきゃ、苦しかったりワイヤーが変なとこ当たって痛かったりするからな」
「苦労すんだな…女って」

自棄になりながら選び、試着までさせられた。
だが、あながち採寸も下着選びも無駄な時間ではなかったようで元から着けていたブラよりも楽な気がする。

「これはアンダーが合わなかったんだな。アタシよりやっぱ細いんだ」
「そうなのか?」
「これ70だから。一番外側のホックでも緩かったから擦れてたんだろうな」
「これは?」
「キッドのは65な。覚えるんだぞ!」

念を押されキッドは投げやりに頷きボニーと選んだ下着を見下ろす。
ボニーによる遊びが見え隠れする色と形だがどうせ服に隠れるしこれ以上の問答も疲れるだけなのでキッドはそれについてなにも言わず、ただひたすら早く帰りたいと思っていた。

「な、小腹空かないか?」
「あー、空いた。つーか腹減った」
「ケーキも軽食も美味い店あんだよ。割引き持ってるし行こうぜ」
「行く」

キッドの即答を聞きボニーはニッと笑う。

「腹膨れたら今度は靴と服だなっ」
「…マジかよ…」

嘆くキッドの手を引きながら近頃女の子に人気の喫茶店へとボニーは案内するのだった。





------

女体化キッドの初めてのお買い物編。
残念なことに「恋人」は出てこず。
そして偽物すぎるボニーちゃん。一人称がわかりません。おしえてくだs
ボニーは女の子になったキッドを世話やいたり連れ回したりするのが楽しいんだと思う。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -