「荷物全部積んだか?」
「ああ。大丈夫だ」
「ユースタスおれ助手席座っていい?」
「構わねぇぞ」

十分海で遊び、心地よい気怠さを感じながら海岸を後にした4人は、そこから2、30分車を走らせた所にある旅館を目指した。
ハンドルを握るキラーの隣りにペンギンが座り、後部座席にキッドとローが乗る。
前と後ろでそれぞれの会話を楽しみながらの道中はあっという間に過ぎていく。

「ここだな。時間も丁度いい」

旅館に到着し、趣のある外観に揃って好感を持ちながら敷居までの道をゆっくりと歩いた。
緑に溢れた景色も、秋、冬となればまた様相も変わり年中楽しませてくれることだろう。
それらしく着物姿の仲居に出迎えられペンギンとローはなんとなくむず痒い思いをしながら記帳しに行ったキッドとキラーを待った。

「えっ」
「なんだよ、不満か?」

少し先を歩く仲居の後をついて行きながらローは驚いた声を上げる。
見れば少し後を歩くペンギンも同じような反応をしていた。
対して、ローの隣りを歩くキッドも、ペンギンの隣りを歩くキラーも悪戯が成功した、そんな顔で笑っている。

「じゃ、後でな」
「ああ」

案内された部屋の前でキッドとキラーはしばしの別れの挨拶を交わしキッドはローを連れ、キラーはペンギンを連れて部屋の中へ入った。
一通りの説明と持て成しの愛想をくれた仲居が部屋を出ると、ローは肩を竦めてキッドを見た。

「部屋、あいつらも一緒だと思ってた」
「そこまで無粋じゃねェよ…それとも、いっそ4人で雑魚寝の方がよかったか?」

意地悪そうに唇を引いて笑うキッドにローはガリガリと頭を掻いて照れを隠す。
こう言う所できちんと恋人の枠をしっかり固めてくれるのはキッドの優しいところだと思わずにはいられない。
それなりに経験があって付き合い方を知ってるからこそ恋人を喜ばせる方法も知っているキッドに、ローは嫉妬よりも先に男前だと素直に感心してしまう。

「雑魚寝も楽しそうだけどな。枕投げとかしたりできるだろ?」
「4人でか?しかもキラーとペンギンだぜ?」
「キラー屋は意外とノッてくれそうな気がする」
「否定しきらねぇな…未だにあいつのスイッチが入る場所が掴めねぇし」

笑いながら確かに、仲間内で大部屋に泊まるのも悪くないなと思う。騒いで遊んで雑魚寝…それも楽しそうだ。
今回は所謂ダブルデートだが、年上の恋人とその友人には随分甘やかされている。

「なぁ…いいのか?おれとペンギンなんもしてねぇけど」
「ま、安くねぇってのは本音だが…たまにはいいだろ。泊まりがけってのも悪くねぇし、前も言ったがおれとキラーの旅行にお前ら連れて来ただけだ」

元から温泉も行きたかったし美味いものも食べたかった。そうなんともなしに言いながら、キッドは「楽しめよ。損するぞ」と笑う。

「せっかく露天付きの部屋にしたんだぜ?」
「は!?」
「どうせなら、ってな。大浴場はまた違うらしいからよ。今からそっち行こうぜ。キラー達も誘って」

海以外はしっかりと自分とキラーの好みを押さえたプランが立てられているらしくローは改めて感心し存分に甘えようと決めたのだった。



***


「ほっぺたがジリジリする…」
「お前元から色が黒いからあんま日焼けして見えねぇよ」
「ユースタス屋は微妙に赤くなってんな」
「そうか?日焼け止めは塗ったが確かにジリジリすんな…、そしてペンギンが一番焼けたな」
「旅館についた頃から凄くヒリヒリしてきた…」
「焼けやすかったんだな…日焼け止めは塗り直さなかったのか?」

揃って大浴場に向かうなか、海で焼けた肌が疼き出してきて火照りが取れない頬を気にするようにローは掌で擦る。
ローは目に見えてはっきり日焼けして見えないが対照的にペンギンは随分色濃くなった印象だ。
2人ともあれだけ陽の下で砂をいじっていれば日焼けするのも頷ける。
対してキッドは元から日焼けしても赤味が出て終るだけに加えて日焼け対策もある程度していたので酷くはならなかったがやはり頬の火照りは感じていた。
キラーもうっすらと焼けているような気もするがその程度だった。

「…?…っ、ペンギン、お前それ……くっ」
「キラー?」
「どうした?」
「なんだ?」

時間が早いからか大浴場の利用者は疎らなようだ。
広い脱衣場に入ると各々入浴の用意をするが、不意にキラーが、はっとした声を上げる。
思わず口を塞ぎ息を詰める様子に名前を呼ばれた本人とキッドとローも不思議そうにキラーを見た。

「くっ…ふふ…、いや、見事に、焼けたもんだと、思ってな」
「笑ってんのかよ…」
「は?な!ローなにす…っ」
「へぇ…ここまで色変わんのか」

上ずった声で咳払いを交えつつ答えるキラーに珍しいとキッドは呆れたように苦笑し、ローはペンギンの腰に巻かれたタオルを引っ張る。
腰から下を境に、海パンを履いていたその部分だけ本来の肌の色が現れ他は日焼けしてすっかり色が濃くなってしまっていた。
脱衣の時に背中とは違い真っ白な尻を目に止めてしまったらしいキラーの笑いのツボを奇しくも突いてしまったようだ。

「……」

流石に恥かしい、とペンギンはうなだれた。腰骨から下を、タオルを少し下げて改めて見ると確かにうっすら色に差がある。腹部でこれだけ色が変わってるのだから背中側はもっと日焼けしてるんだろう。

「よく見りゃ太腿も焼けてんな」
「本当だ…なんでおれだけ…」

キッドもロー相手なら爆笑をかましてからかっている所だが流石にペンギン相手に出来る筈もなく笑うのを堪えてキラーが使えない今、慰め役に回るしかない。

「大丈夫か?お前それ後で皮剥けそうだな」
「大丈夫…ヒリヒリはするけど…皮剥けんの嫌だな…」
「湯が熱いと痛ぇからシャワー気をつけろよ」
「おい、ユースタス屋…なんでペンギンには優しいんだ」
「うるせぇ。キラーもいい加減にしろよ…さっさと風呂入んぞ」

若干ムッとしているローの背を押しキラーとペンギンを促しながらキッド達はゾロゾロと浴場に入った。




「トリートメントつけても髪の毛がギシギシする…」
「だな…お前は特に大変そうだな」
「なかなか馴染まなくていつもの倍くらい使ったぞ」

先に全身を洗い、キッドとキラーは大浴場の湯船に肩を並べてゆったりと浸かる。
海水と陽射しにより髪が痛み、それなりに髪の長さのあるキッドも絡み合うそれに多少手を焼いたがキラー程ではないだろう。ギシギシと指通りの悪くなっているのに加え、背中の真ん中よりもまだ長い髪は手入れするのに相当苦労したようだ。今はゴムとコンドルでまとめ湯に髪が浸からないようにしている。

「はー…しかし、ふふっ…」
「あんま笑ってやんなよ…真に受けんぞ?」
「そうだな…く、…悪い」

脱衣場での事を思い出したのだろう、キラーが再び笑い出してちゃぷちゃぷとお湯が揺れる。
そのペンギンとローはと言うと、陽に当てたれ火照る身体を文字通り冷やしに水風呂へと連立って行っていた。
2人ともシャワーが普段つかう程の温度でも熱く感じたらしく、ともすると水に近い程の微温湯を浴びていた。
ローの方も目に見えないだけで大分肌を焼いてるようだった。

「おれ達でさえ少しは焼けたんだし…当たり前だな」
「パーカーくらい着るように注意してやればよかった」

失念してたと今さらになって思うが後の祭りだ。だがこれもいい思い出になっただろう。

「うわっ!」
「ッわ!」

キラーとキッドの会話も途切れ掛けたその時、2人ともが咄嗟の声を上げた。
入口側に背を向け、広々とした湯船の縁にもたれてすっかり気を抜いていた身体が痛みにも似た急な刺激に大袈裟にビク付く。

「なっ!テメェなにしてんだ!」
「ッ!…お前まで一緒になって…」
「なんか馬鹿にされてるような気がしたからな」
「ちょっとした仕返し?」

湯から出ていた肩口に走った痛みにも似たそれは、今まで水風呂に入っていたローとペンギンのすっかり冷えた手がペタリと触れて来た所為らしい。
したり顔の年下供にどれだけ心臓に負担が掛かったかを教えてやりたかったが、疎らとは言え他の利用者もいる公共の場なのでキッドとキラーは言葉を飲み込んだ。

「アッチィ…っ」
「水入った後だから余計熱いな…」

足先や手先がじんじんするのを堪えながら温泉に入るローとペンギンにキッドは首を傾げる。

「火照りは取れたのかよ」
「いや…全然。水風呂入って顔だけ余計熱くなるし身体は冷たくて痛ェし」
「我慢出来なくてこっちに来たけど…慣れるまでは熱いな…」
「1度温いシャワーでも浴びて来ればいいだろ」
「そしたらキラー達に悪戯出来ないだろ?」

漸く肩まで浸かりほーっと深い溜め息を吐く年下2人に年上2人は飽きれた溜め息を吐きながらも、もう暫く温泉を堪能するのだった。





〜 湯上り 〜
(ユースタス屋、ちょっと外行きてぇ)
(外?いいぜ。キラー、19時におれ達の部屋で飯な)
(ああ、わかった。おれ達はどうする?)
(おれは部屋でゆっくりしたいな…ちょっと疲れた)




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -