「たこ…」
「あいつがどうしてもって言うからな」




一頻り遊んだ4人は1度海から上がり昼食でも食べようとレジャーシートに腰を下ろした。

「ペンギン、悪ィそのバッグくれ」
「これ?」
「キラー屋なんか飲み物ねぇ?」
「あるぞ。好きなのを選ぶといい」

キッドが保冷バッグをあけ、前日から仕込み今朝も早くから作っていた弁当を広げる。
大きめのタッパーを弁当箱代わりにし、詰め込まれたおにぎりやおかずはどれも美味しそうだとペンギンは思った。

「箸もあるが気にならねぇなら手掴みで食えよ」
「朝からこれ作ったのか?」
「流石全部じゃねぇけどな…夜に面倒くせぇのは済ませて朝は飯握ったり」

苦笑するキッドは、はじめは道中にコンビニでも寄って各自好きに買えばいいと予定を立て、実際キラーともそう言う話になっていたのだがローの「弁当作っていかねぇの?」の言葉に仕方なく作ることにしたのだ。
「面倒臭い」の一言で切り捨てられなかったのは言葉にこそ遠慮を含ませてはいたが目は口ほどに…と言うように普段よりも期待で輝かせたローの目がキッドをそうさせるほかなかった。

「あ、左の列お前食うなよ。梅入ってんぞ」
「わかった」
「キラーは梅嫌いなんだな」
「…酸っぱいのが苦手なんだ」
「あー、酢の物食えねぇって前言ってたなキラー屋」

各々好きなものに手を伸ばしながら他愛ない会話を楽しむ。
大体は今食べている弁当についてのことだった。

「たこ…」
「あいつがどうしてもって言うからな」

ペンギンが摘み上げたウインナーの形は大の男4人で囲む弁当のおかずにしては余りにも不似合いだ。
熱することで4辺が外向きにカールする『タコさんウインナー』に飾り切りされていた。
調理した本人は苦そうな笑みを浮かべ、ねだった本人は至って嬉しそうにしている。

「トラファルガーのことだから"蛸の足は8本だ"とか言ってごねてそうだな…」
「あぁ、実際に大まじめな顔でそう言いやがったぜ?けどな、大きさ考えてみろ。これに4本切れ込み入れるの結構難しいんだぜ…足は取れるし切る時間は掛る…焼いてるうちにも足がもげる」

キラーは朝っぱらから2人が問答するのを易々と想像し苦笑を漏らす。なんだかんだ言いつつ一応ローに付き合ってやるキッド本人も楽しんでいるのだろう。そうでなければこの弁当すら最初から作ってはいないのだ。

「お、キラー屋これなんだ?」
「ん?ああ、開けていいぞ。果物だ」

クーラーボックスの中にこれもまたタッパーを見つけたローが、キラーに促され開けると中にはパイナップルやブドウが詰められていた。

「ッー…ッ!」
「あ?ああ…一気に頬張るからだろ」

パイナップルを一つ摘み頬張ったローは途端に悶絶し頭を押さえる。その様子にはじめは怪訝そうにするもすぐに辺りをつけてキッドは苦笑した。
キラーが気を利かせ果物はシャーベット状になる程度凍らせていたので一気に頬張ったローには冷たさによる頭痛が襲っているらしい。

「いってぇ…けどうめぇ」
「よかったな。だが1度に食べると脇腹が痛くなるぞ」
「ブドウも甘ッ〜…」
「ペンギンも意外と学習しねぇのな」
「いや、頭じゃなくて…口ん中、冷たすぎてっ…」
「少し凍らせ過ぎたな」

結局、キッドとキラーも冷たさによる洗礼を受けながら、持参した弁当を綺麗に片付けたのだった。



***


「地味にはしゃいでるな、あいつら」
「地味と言う言い方はどうかと思うが…」

食休みの後、砂に足先を埋めたりと1人遊びをしていたローは不意に立ち上がり、波から少し離れて所に行きしゃがみ込むと手で砂を集め山を作りはじめた。
そこにペンギンも寄って行き、対した会話をする様子もなく黙々と、2人で黙々と砂山を作っていく。
不要なものはさっさと片付けつつキッドとキラーは2人を見ていたが着々と形成されていくのは、砂山を通り越したものになっている。

「こう…曲線で」
「砂が纏まり辛くて意外に難しいぞ…それは」

ローは砂に図を書きながら、それと砂山を見比べながらペンギンが先程取りに来た割り箸で砂を削り出す。
キッドとキラーの贔屓目で見ているからだろうか。2人ともがとても生き生きとし熱心に作業をしている。

「楽しみ方はそれぞれだけどな」
「それにしても…少し違ってると思わざるを得ないな」

若者のノリはネタでなはいクオリティ高めな砂遊びに苦笑しつつ生暖かく見守ってやるのは、楽しそうな彼らを見守っているのもまた、楽しいと思えるからだった。
ピピッ、とキッドは側で聞こえた電子音にそちらへと視線を向ける。

「…デジカメ持って来たのか」
「2人にこの様子を後で客観的に見せてやろうと思ってな」
「お前…」
「トラファルガーは兎も角、ペンギンをからかうのは意外と面白いんだ」

にまりと唇に弧を書かせたキラーは見て分かる通りに楽しげだ。

「さて、そろそろおれ達も行かないか?」
「だな。冷やかしにいくか」

揃って立ち上がり、キラーはデジカメ片手に静かにはしゃぐ彼らの元へ行く。
砂の城が出来たら、また海に入ろうと誘おうか。
陽が落ちる前までの限りある時間を存分に楽しむために。


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