*殺人とカニバリズム








「お前まだ育つ気か?」
「あ?」
「良く食うなと思って」
「あー…、なんっか、最近食っても食っても足りねぇっつーか。逆に腹が減るっつーか」
「ふうん。ま、大概にしておけよ?」

朝、母親の作った飯を食って学校へ行く。それでも1限が終わる頃には小腹が空いて、隣りの席の女子から勧められるままにポッキーを食べる。
ポキ、ポキ、と口に咥えながらゆっくり咀嚼してると一瞬は空腹が飛んで、口腔に広がるチョコが美味いな、なんてぼんやり。
2限の休みもやっぱり口淋しくて、3限が終わると母親の持たせた弁当を食った。4限が終わり飯に誘いに来た奴と購買へ行って適当にパンやら菓子やらを買う。5、6個

「なんか、食いてぇ」
「まだ食うのか!?」
「んー…、なんだろうな。なんか食いてぇんだけど何が食いてぇのかわかんねぇんだよな」
「あぁ、ま…あるけどな。そんなこと…」

パンを全部腹に納めて、なおも口淋しく飴玉を口に入れる。甘いそれが解け出して、あぁ…まただ。腹が鳴りそう。



ガリリ、ガリ、ガリ。ごり、ガリガリ…




帰り道、気を紛らわす為の飴を既に3つ噛み砕きながら歩いていると、不意に鼻に匂いが届いた。
香ばしい?芳醇?甘い?いがらっぽい?生臭い?
思わずゴクリと、喉がなった。
なんだろう。なんだろう…
興味を引かれる。
口腔、に、唾が溜まる。
腹が、鳴る。

思わず駆け出した足は、匂いを放つ方へ走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る。
いつもの道をそれて、大きな道路を渡り、飲食店の並ぶ道を走って、色んな匂いの混る温風を吐き出すダクトの下を潜って、ジャリ、と割れた硝子の破片を踏みながら。

「…あれ…?参ったな。ここは人が来ないと踏んでたんだが」
「………」

入り込んだ暗がりの狭い路地。
そこには、口許に笑みを携えた男が立っていた。

「ふふ…どうした、迷子か?」

首を傾げて問う男は手元のナイフを器用に掌で遊ばせ足元に転がる、人形のようなもの、を足先でつつき踏んだ。

「…それ、テメェが…」
「ん?あぁ。まァ…まだ辛うじて生きてるぜ」
「殺して、どうするんだ」
「バラして何処かの橋の上に並べるか。埋めるか沈めるか…だな」
「……バラす」
「ハァ。やれやれ…バラすもんが増えちまったな」
「?」
「流石に、現場見られたら生きて返してやれねぇからさ…痛いとは思うが…精々、」

ピッ、と首筋に何かが触れて、なんだか熱い。触れてみると指先が赤く染まった。
まるで、溶けたチョコレートに指を突っ込んだみたいに。

「痛がって、泣いて…く、れ……?」
「……"ちゅぱっ…"」

くちゅ、ぺちゃ。
指の先を口に含んで舐め取ってみると、チョコレートとは程遠い味がした。なんだか喉にざらついて、甘くて、少し酸味があってあぁ、でも。

「…フフ…。"美味いか?"」
「"…美味い"」

俺を目を丸くして見ていた男は今度は目を細めて柔和な顔で笑った。
俺はグー、と低く鳴いた腹を見下ろす。

「腹へってんのか?」
「…」

頷いた。頭を縦に振りもう一度自分の首に指を這わせてせれをしゃぶる。
なんだが自分の指まで食ってしまいそうだ。

「分けてやろうか?」
「なにを?」
「"これ"」

そう言って足元のまだ、温かそうな人を蹴り転がす男はナイフをパチン、と鳴す。

「美味いのか?」
「さぁ…俺は食べた事がねぇからな。食いたいと思った事もねぇ」
「……」
「俺の後ろに立ってろよ。服が汚れるぜ」

ビッ、と服を割いて薄いナイフの刃が皮を貫いてスー、と滑る。
脂肪、筋肉、骨が姿を見せて黒い血が広がる。
グゥ…グー…

「なぁ、なんか袋持ってるか?」
「…これでいいか?」

朝寄ったコンビニの袋を渡すと、男は切り分けた肉を袋に詰め立ち上がった。

「ちょっと手伝ってくれねぇか」






バラしたパーツを男と一緒に棄てて回った。こんなやり方でいいのかと疑問もあったがコレで最良だと男が笑ったからよしとした。

「適当に座れよ」

手伝ってくれたお礼に、と男は実家に招いた。あんな事を趣味にしている奴がこんな"イイとこ"に住んでるなんて思いもよらなかったが。

「ご馳走してやるよ」

テーブルに先程のコンビニ袋を置き、そしてホットプレートを持って来た。
俺の向かい側でまな板と包丁を置き、袋から肉のブロックを出す。
あぁ、腹の虫が煩い。空腹で倒れそうだ

「さしずめ"カルビ"ってとこか…フフフ…」

適度な厚さ薄さ大きさに更に切り分けて皿に盛る。美味そうだ。早く食べたい

「文字通り新鮮だが…初めは火を通した方が食いやすいだろうな」

ジュ〜ジュワー…
焼きのいい音、匂い、脂の跳ね。全部が俺の胃を刺激して口腔は唾で溢れてる。

「レモン、タレ、塩…そのままで喰おうがお前次第だ。ただ、雑食の肉はクセがあるから注意した方がいい」

目の前に置かれた皿にミディアムレアに焼かれた肉が乗る。
忠告を受けて、手始めにタレの中に突っ込んで恐る恐る頬張った。

「…ッ…え」
「どうだ」
「…〜…わかんねぇ」

噛む度に鼻に抜ける癖のある風味に胃がせり上がる。それでも良く噛み砕いて飲込むと、すぅっと、目の前が晴れた気がした。

「…」
「どうした?」
「……、」
「うん?」
「コレだった…食べたかったのは」
「そうか。じゃあ…どんどん食べな。パンも米もある…野菜も焼いてやろうか」

優しげな顔で笑った男は俺が食べたいと言った飯を茶碗に盛り付けて、適当に切った野菜を肉と共に焼いてくれた。
あぁ…腹が膨れるって感覚を久し振りに感じたかもしれない。

「トラファルガー・ローだ」

肉を焼く合間に煙草を咥え火を付けた男は名前を教えてくれた。年も、仕事も、趣味のことも。
俺には名乗る必要はないと言ってくれたが、

「ユースタス・キッド…」

彼に、知って欲しかった。ただ普通の家庭に生まれたことも、人を殺したことがないことも初めて人の肉を食べたことも、ずっと満腹感を得られなかったことも、漸く…腹が膨れたことも。

「口、喰いカスが付いてるぜ」

人を殺してバラしたあの血塗れだった手指は今は洗ったのか綺麗なものだった。その指がそっと俺の口を拭きぺろりと舐め取る。

「でかい冷蔵庫を買おうか。お前の為に、新鮮なのを…いつでも喰えるように」
「…なんで…」
「お前に一目惚れした。飯いっぱい喰わせてやるから、エッチさせてくれよ。そんで俺を好きになって」
「いーけど…焼肉ばっかじゃ嫌だぜ?」
「勿論。料理は得意だから安心しな」


ローの指が首筋に触れてピリピリとそこが痛む。
そう言えば、ナイフで切られたんだっけと、ローの指の上から自分の指を這わせた。

「手当てしよう。ベッドに行こうぜ」
「それ手当てじゃねェだろ…」




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ただのホモが焼肉パーティしてエッチする話。
ただしお互いの趣味が殺人と人食だったっていうだけ。
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